話が纏まって直ぐに、アカネは母である天照の元へ向かった。
この国のことは、彼女に話すのが一番早い。
朱色の煌びやかな扉を押し開け、広間に入る。
いつものように上座に座る天照と、その隣に控える月読にゆっくり近付いた。

「母さん、聞いてほしいことがあるの」

「何です?」

真剣な娘の表情に、天照は些か驚いたように目を丸くする。

「黄泉のこと、助けてあげて」

単刀直入のその言葉に、表情を崩さない月読までもが目を開き驚きを露わにした。

「黄泉を…?」

「うん。母さん分かって、黄泉は存在を認めてもらいたいだけなの。あたし陰に行って分かったんだよ、黄泉がどれだけ悲しい存在なのか」

天照は陰に赴いたことがない。
陰に足を踏み入れることが許されないからだ。それ故に天照は黄泉の真の姿を未だ一度も見たことがない。
ぼんやりと、神にとって危険なものだと理解していただけなのだ。
月読もまた同じ。

「黄泉をちゃんと認めてあげれば、戦いは終わるの。誰も傷付かなくて済むの」

アカネから目を逸らさないまま、天照は微笑む。

「黄泉が悲しきものだとは、分かっていました。彼らの救いを求める想いは、遥か昔より私に届いています」

「だったら…!」

「ですが、アカネ。神々は納得しないのです。現に神々は昔から黄泉に襲われてきました…故に、認めぬのです」

自分達を脅かす存在が、安全な訳がない。影でしかない黄泉と、肉体と使命を持つ神々が対等である訳がない。
その考え方は、言葉では理解させられないと、天照は視線を落とす。

「戦いを止めよと申せば、神々は刀を引くでしょう。ですが大きな不満は残ります」

不満はやがてひとつの渦になり、高天原の崩壊を招く。
殺し、奪い、無秩序な世界になりかねない。
心というものの弱さと愚かさを知るが故に、天照は懸念した。

「黄泉に対抗しなければ、天照様にも危険が及びます」

抑え付けられた神々怒りの矛先は、必ず天照に向けられる。天照が殺されれば、高天原にも中つ国にも太陽がなくなってしまう。暗黒の世界になってしまうのだ。

「太陽の死は、貴女様の死をも意味します、火明様」

月読の言葉に、アカネは黙る。
やはり簡単にいきそうな問題ではない。
天照にさえ力を貸してもらえればと思っていたが、そうも上手くいかないようだ。
古くから続く迫害がなくならないのは、それだけ一度根付いたら拭いにくい問題だからだろう。
天照の一言二言で納得する者は、最早いないのだ。





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