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「はぁー?もう、どっちの味方しろってのさ」
影熊がサッパリ分からんとばかりに胡座をかいたまま両手を後ろに着く。
「影熊の言いたいことは最もだ。俺達は今まで、当たり前のように神に力を貸してきた」
サイは影熊の愚痴を受け止め、頷く。その眼に迷いはもうなかった。
「俺は今後、神と黄泉、どちらか一方の味方にはならない」
決めていたことだった。
影狼丸に真実を聞かされてからずっと、サイの中にあった考えだ。
「中立、ということか」
雫鬼は腕を組む。綺羅は頷きつつも、僅かに眉を側めた。
「だが…神の危機に助けるなと言うのも、酷な話ではないか?」
神々には多大な恩がある。それに仇で返すようなやり方は出来ない。綺羅だけでなく、三年前に旅をした五人全員がそう思っていた。
「逆に考えるんだ。どちらにも荷担しないんじゃなく、どちらにも荷担しどちらも救う」
どちらの味方にもならないのではなく、どちらの味方にもなる。
サイのその考えに、アカネは賛同した。仲間内で唯一神であるアカネにとって、そのやり方はとても嬉しかったのだ。
「神も黄泉も幸せになれる道を探すってことだね!」
そんな道があるのなら、選ばない訳がない。
「神は分かってないの。黄泉が可哀相な存在だってこと…ただの危険なものとしてしか見てないから、迫害し門の向こうに追いやった」
アカネは高天原で読んだ歴史書のことを話す。
高天原に黄泉という存在が現れた瞬間、神々は塀で国を囲い門を作り、陽と陰に分けた。
それは誰が命令した訳でもなく、自然にそうなったらしい。
「黄泉は肉体こそ失ってるけど、魂はあるの。だから痛みも悲しみも感じてる。ちゃんと存在してるって、認めてほしいんだよ」
口が利けぬ為に、今までその心を知ることはなかった。
だが一度器を手に入れれば、笑うことも泣くことも出来た。
「あたし達と同じ。何も違わない」
アカネの言葉に黙って耳を傾けていた仲間達は、それぞれに納得したようだ。
ここにいる仲間は、皆深い苦しみと悲しみを味わってきている。
神よりも黄泉の方が、感情移入はしやすい。
「迫害は辛いことです…」
姫宮とサイは視線を落とす。この二人は今も、人間に差別されているのだ。
「孤独ってのも、きついしね」
影熊もぼそりと呟く。
綺羅に出会うまで、誰にも認められず、必要とされず苦しんできた。
「神々を止めよう。無意味な衝突でこれ以上どちらにも犠牲者を出さないよう、説得しよう」
サイの言葉に、今度は全員が迷いなく頷いた。
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