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焔伽の一件から数日、大分体の調子も良くなってきたようで、サイはそろそろ話すことをきちんと話そうと、仲間を呼び集めた。
再び揃った仲間達は、仮死状態になった焔伽にちゃちゃを入れつつ、ほっとした様子だ。仲間達の間に穏やかな空気が流れる。
「ったく、喧嘩して一回死んでって…馬鹿なの?その頭一度死んで治したら?」
「うるせー!だから死んだんだっつの!」
「じゃあもっかい死ね、二回死ね」
いつものように焔伽を馬鹿にする影熊の頭を掴んでぐしゃぐしゃにする焔伽。アカネや綺羅はそんな二人に笑い、姫宮と雫鬼はサイに頷いた。
派手に揉めていたサイと焔伽を皆心配していたのだ。だがそれも無事解決した様子で、また笑顔が戻ったことを喜んでいる。
「振り回して、すまなかった。今から黙っていたことを全て話す。聞いてほしい」
サイがそう切り出すと、じゃれていた二人も手を止め、サイに注目する。
仲間を危険に巻き込まない為に隠していた秘密。
黄泉である影狼丸と自分の関係を、まずサイは皆に説明した。
サイがまだ生まれるはずではなかったこと。ここに生きているサイの体が、本当は影狼丸のものだったということ。自分と入れ代わる形で、影狼丸が黄泉になってしまったということ…順を追って、出来る限りかみ砕いて説明した。
その事実に誰もが唖然とし、束の間言葉を失う。
「それが、サイの生まれ…」
アカネの呟きにサイは頷く。
各々が頭を整理している最中なのか、視線はあちこちに向けられていた。
「……お前の体が元々影狼丸のものでも、無理矢理生まれさせられたんだとしても、ここにいるのはサイ、お前だ。お前はお前以外の何者でもねぇ。そうだろ?」
真実を受け止めた上で、焔伽は真っ直ぐサイを見据えて言う。
「どんな生まれ方だったとしても、あたしはサイが生まれてくれて良かったと思う。じゃないと、あたし達皆、ここに集まることもなかった」
続けてアカネが言い、姫宮も微笑んだ。
「話して下さってありがとうございます。サイ、貴方は、影狼丸を救いたいのですね」
優しい声色で紡がれたその言葉こそが、サイが最も打ち明けたい内容だった。
影狼丸は黄泉の首領だ。しかしサイはそれを救いたいと思っている。
影狼丸がサイを自分の器だと認識した時、この体を奪い返すことも出来たはずだ。なのに影狼丸はそうしなかった。
影狼丸はとても澄んだ心の持ち主だと、サイはもう分かっている。
自分の片割れのような存在を、無下に消す事など絶対にしたくはなかった。
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