「私は…私だって…お前と一緒にいたい…」

か細い声は、それでもしっかりと焔伽に届く。僅かに目を開いた焔伽は、そっと山茶花の両肩に手を添え、体を離した。
向き合った桜色は濡れているが、口元には微笑みが浮かんでいる。
不器用で、健気。
込み上げる愛しさに、唇を噛んだ。

「ずっと気にしてた…住む世界が違うことも、寿命が違うことも。だけど…」

涙を拭い、照れ笑いを浮かべる。

「それでも私は、お前と一緒にいたい」

「…っ、」

山茶花が言い終わるか終わらないかの勢いで、焔伽は再び風を腕に閉じ込める。
我慢していた想いが溢れるのを必死に抑えながら、眉を側め頭に頬を寄せた。

「今みたいに、こんだけ混沌としてる高天原でも…それでも中つ国よりは安全で豊かで、美味いもんも食べられる」

山茶花は耳元の声に静かに耳を傾ける。

「中つ国では、明日を生きるにも苦労するかもしれない。いつ妖に襲われるかも分からない。それでも、俺と来てくれるか?」

ここでの豊かな暮らしを全て捨てて、身ひとつで中つ国に降りる。
後ろ髪を引かれない訳ではない。高天原には、仲間が沢山いる。慣れ親しんだ家も、追放となった軍も、愛着あるものだ。
だがその全てを失うより、焔伽と離れる方が辛い。

「行くよ…焔伽、お前と一緒に」

山茶花は焔伽の胸を押し、顔が上げられるくらいの距離まで離れる。

「お前と生きたい」

山茶花の一番の本音だった。
焔伽の瞳が僅かに震える。
泣き笑いのような表情を浮かべ、山茶花の頬を優しく撫でた。
そしてゆっくりと、額を合わせる。

「ありがとう、サザンカさん」

安堵、喜び、様々な感情から声が震える。
追っても追っても捕まえられないと思っていた風が、腕の中にいるのだ。
大切なものを全て置いて、自分を選んでくれたのだ。

「っあー!大好きだ、サザンカさん!」

ぎゅっと、これでもかと言うくらいに掻き抱く。
自分には怖がらずにいてくれることも、されるがままに身を任せてくれることも、全てが嬉しい。
例えようもない程に大きなものを、山茶花はくれた。
だがひとつだけ、まだ貰ってないものがある。

「なあ、サザンカさん」

「ん?」

見上げた山茶花に微笑み、耳元で囁く。

「好きって言えよ」

「……っ!!」

山茶花が途端に真っ赤になったのが顔を見ずとも分かり、焔伽はくつくつと笑う。
さて、なんと返してくるだろう。
どんな風に返ってきても、きっと嬉しいに違いない。
高鳴る鼓動と期待を胸に、山茶花の頭に頬を寄せた。





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