6
「好きだ」
向き合った先の綺麗な空色は真剣で。
少し眉を寄せながら、真っ直ぐに山茶花を見ていた。
零れた涙を追うように、次々と溢れては頬を伝う。
「俺はアンタのこと、ずっと好きだったよ…サザンカさん」
呼吸も忘れて見つめる山茶花から一度目を離し、ひと息着いて再び目を合わせる。冷静なつもりだが、焔伽の口の中はカラカラだった。
「俺がいつから好きだったか、知ってる?」
焔伽の問いに、山茶花は黙ったまま首を横に振った。
焔伽は気恥ずかしそうに眉を側めながら微笑み、引いた手をそのままもっと引き寄せ、すっぽりと山茶花を抱きしめる。
「三年前から。アンタと修業してた時から、好きだって思ってた」
知らなかった。
会いに来なかったのは、嫌いだったからではなかったのだと、山茶花の中で不安だったものが溶けていく。
「だったら…なんで、三年も…」
抱かれるままに、掠れた声を絞り出す。
「格好悪い話、覚悟が出来なかった…次にサザンカさんに会ったら、俺は、きっとアンタを離したくなくなる…」
焔伽の腕に少し力が篭る。
「アンタは高天原の神だ。そのアンタに、俺は全部捨てる事を望んでんだよ」
焔伽は苦々しく眉を側め、片手で山茶花の頭を撫でる。
「神としての力も寿命も、地位も名誉も、国すら全部捨てて、俺と一緒に中つ国に来てほしいって…俺はそんな事願ってんだ」
山茶花の目が見開かれ、また一筋涙が流れる。
「俺はただの人間だから…アンタを手に入れるには、アカネと同じこの方法しかない。…けど、こんなことを言ったらサザンカさん困るだろ…だから言えずにいた」
ため息を吐いた焔伽の背に、おずおずと腕を回す。肩に額を押し当て、顔を隠して山茶花は微笑んだ。
「ずっと悩んでたのか?三年も…?」
「そ。アンタのことを忘れた日なんて一日もなかった。直ぐにでも会いに行きたかった。でもその勇気がなかったんだよ。拒絶されたら、どうしようって…そればかり考えちまって。今だって死ぬほど緊張してるし、こわい。…情けねぇな」
短く笑う焔伽に、山茶花は額を当てたまま首を振った。
背中に回した手が、無意識に焔伽の着物を握る。
こんなに色々考えていてくれたなんて、山茶花は思ってもいなかった。
一方的に待っているだけだったらどうしようかと心配した。他に好きな人が出来たらと不安にもなった。
けれど、それは杞憂に過ぎなかった。
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