「大分、体は動くようになったみたいだな」

隣に座りながら、山茶花は言う。焔伽は腕を回し、首を左右に傾け、調子を確認しつつ微笑む。

「まだ若干の違和感はあるけどな。こりゃちょっとまた修業しねぇと鈍ってたらまずい」

「ったく…目ぇ離してる間に何死んでんだ」

しまった、と山茶花は微かに眉を寄せる。また思ってもいない言葉が口をついて出る。
目を覚ましてくれてよかった。
心配した。
たったそれだけの事が上手く言えない。

「ははっ、悪い…心配した?」

答えない山茶花から、焔伽は自分の右手に視線を移す。

「手、握ってくれてたの、サザンカさんだろ?」

山茶花は目を丸くして焔伽を見る。目を覚ました時には離していたのに、何故分かるのだろう。

「目、覚めた時すっげぇ暖かかったから。側にいてくれたの、アンタだろ?」

ズバリ言い当てられ、山茶花の頬が微かに染まる。唇を噛み、僅かに俯いた。

「目覚めて、よかったな」

「ああ…あのまま死んじまうのは流石に嫌だったしな」

笑いながら言う焔伽に、バッと顔を上げる。その勢いに焔伽は一瞬目を丸くし、だが山茶花の表情を見て直ぐに穏やかな目に変わる。

「焔伽、」

「…なに、サザンカさん」

言葉に詰まり、山茶花は唾を飲む。
山茶花の言葉を待つ焔伽の表情は柔らかく優しい。しばらくの沈黙が流れても、ただ静かに山茶花を待っていた。

「…その…、お前…は、私のこと…どう思ってる?」

絞り出した言葉はあまりにたどたどしいが、山茶花の頭はいっぱいいっぱいだった。
焔伽が出発する前に言おうと思っていたこと。いつでも言えると思っていたが、下手をしたら永遠に言えないままになっていたかもしれない。
余計なことはいくらでも言えるのに、肝心なことはこうも言えないものかと、情けなくなる。
焔伽が口を開くまではほんの少しの間だったが、山茶花には永遠のように長く感じた。

「サザンカさんは、俺の師匠で、恩人で…憧れの人だよ」

山茶花は膝の上でぎゅっと拳を握る。
十分嬉しいが、聞きたかった答えじゃない。自分自身よくわからない感情がぐるぐると渦を巻き、何故か目頭が熱くなる。
目を見ることが出来ず、溜まっている熱を零さないよう庭へ目をやり、空を眺めるふりをした。

「けどさ、師匠とかそういう立場よりもっとずっと、アンタのこと大切に思ってる」

朝日を見つめたまま、山茶花は目を見開く。
次の瞬間後ろから手を引かれ、背けていた顔を向き合わされる。引っ張られた拍子に、溜まっていた涙が零れた。





[ 159/171 ]

[*prev] [next#]




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -