「!焔伽!」

握っていた焔伽の手が動き、山茶花は真っ先に顔を覗き込む。
冷たくなっていた顔や体に赤みが差し、呼吸もしている。
閉じられていた瞼が僅かに震え、ゆっくりと開かれた。

「焔伽…!」

アカネも涙目で笑顔を浮かべながら焔伽を覗く。ゆっくり瞬きを繰り返し、視線を山茶花へアカネへと動かしている。
そして小さく唇が動いた。

「…体…、動、…ねぇ……」

「口も動いてないよバカー!」

アカネは泣き笑いしながら焔伽に抱き着く。その発言にサイと山茶花は思わず笑い、焔伽だけがぽかんとしている。

「あっ…ちょ…まじで、動き辛ぇんだけど…」

「死後硬直だな」

サイは眉を側めて苦笑する。半日程度とはいえ、死んでいたのだ。
体がまだ硬くなったままなのだろう。

「死後…って、俺死んでたのか…?!」

「記憶にはないのか」

「俺は確か、黄泉の攻撃受けて…」

成る程、本人は死んだ自覚はなかったらしい。
サイは焔伽の体の緊張が解けるまでの間、今までのことをゆっくり話して聞かせた。
山茶花は黨雲に目覚めたことを伝えに席を外している。

「…そっか、サイに助けられたんだな」

「あたしも、ね!」

冗談っぽく膨れたアカネの頭を撫でながら、焔伽は悪い悪いと笑って訂正する。
サイとアカネが手伝い、座った状態にまで起き上がると、焔伽はひと息吐いた。

「焔伽、」

「悪かった」

言いかけたサイを遮るように、焔伽は言う。サイは目を丸くし、真剣な表情の焔伽を見た。

「なっ…なんでお前先に言うんだ!俺が言おうと思ったのに!」

「はぁ?!なんでンなことで怒るんだよ!悪かったから悪かったっつったの!俺だって気にしてたんだからな!」

二人で喚き合い、一瞬の沈黙の後三人は声を上げて笑う。

「いや…でも謝るのは俺の方だ。お前の気持ちを無視してごめん、今まで…ずっと」

今回のことだけじゃない。
サイは今まで何度も、焔伽を傷付けていたのだろう。我慢しきれず、爆発するまでに追い込んでしまった自分に深く反省し、頭を下げた。
以前占いで吉野に言われた「仲間を大切にしろ」「決して間違うな」とはこのことだったのかと、今になって分かった。

「もういいって。お前がそういうの不器用だって知ってるしよ」

サイは昔から人に何かを相談することが苦手だ。それは相手の迷惑になり、重荷になると思っている。
けれど親しい者からすれば、黙って一人で悩まれる方が辛い。いつか無茶をしでかすのではないかと、不安にもなるのだ。

「巻き込みたくなかったんだ。俺の都合で、お前や皆に危険が及ぶかもしれない事が、怖かった」





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