「サイ!今だよ!!」

「ああ!」

魂を出しきった黄泉にサイは刃を振るう。
元々力のある個体ではない為、一撃で呆気なく黄泉は消えていった。
サイがアカネを見ると、アカネを取り巻くように魂がふわふわと宙に浮いていた。
淡く色のついた光だ。赤っぽいもの、青っぽいもの、その魂ごとにそれぞれ色が違う。

「サイ、この中のどれかひとつだよ」

サイはアカネに近付き、魂を見つめる。

「あの黄泉、ひとつに触れたら他の魂は昇華してしまう術を掛けてるみたい…。だから、失敗出来ない」

ひとつを選べば、それ以外の魂は浄化され、消えてなくなる。
焔伽の魂を当てられなければ、その時点で焔伽は死ぬことになってしまう。
サイはアカネの言葉を聞き、慎重に魂を見て回る。どれも同じ大きさ、同じ輝き。こうして見ると、命とは本当に皆等しいものなのだと改めて分かる。

ひとつひとつに目を遣りながら、サイは焔伽に思いを馳せる。
物心ついた頃から一緒だった。
兄弟であり、親友であり、好敵手だった。
サイの掛け替えのない人物だ。
何度も助けてくれた。何度も引っ張ってくれた。人を元気にするような温かな笑顔で、苦も楽も共にしてくれた。
サイの人生には、こんなにも焔伽が関わっている。もし出会っていなかったら…そんな自分が想像出来ないくらい、焔伽はサイの一部だった。
ひとつの魂の前で、サイの視界が霞む。優しく温かな光…サイにとって、特別な光だった。
その魂から目を離さず、サイは泣き笑いを浮かべる。

「分かってるよ…俺がお前を間違う訳、ないだろ」

掬うように優しく魂を取り出すと、他の魂達はふわりと高く舞い上がり、空に消えていった。
黄泉によって留められた魂が、無事成仏出来るようにアカネは束の間祈りを捧げる。
そしてサイの手の平の上に浮いた状態の魂に、術を掛けた。

「しばらく我慢してねー焔伽」

サイが選んだのだ、これは間違いなく焔伽なのだろう。
アカネはサイを信じている。
持っていた小さな瓶に、魂を一時的に封印し、サイに手渡す。

「これで持ち帰れるよ」

「ありがとう。アカネがいてくれて助かった」

サイが言うと、アカネは心底嬉しそうに微笑んだ。その笑顔につられて、サイも微笑む。

「ささっ、早く帰ろ?こんなとこに詰められて焔伽可哀相だし!」

瓶をつつくアカネに笑い、サイは頷いた。

来た時よりも慎重に、瓶に気を配りながら陽へと戻る。相変わらず黄泉は湧いては襲い湧いては襲いの繰り返しだ。斬っても斬っても減らない。
こんなに数がいては、如何に軍の隊長格と言えど手を焼くだろう。
こちらには体力の限界があるが、どうやら黄泉にはその概念はないらしい。消し去らない限り永遠に向かってくる厄介な相手だ。

「悲しい存在だな…」

「そうだね…」

黄泉を倒しながら、二人は心静かな気持ちで朱雀門を潜った。
空には朝日が昇っている。期限には間に合った。
屋敷へ戻り、部屋に入ると、山茶花がハッと振り返り二人を見上げた。

「取り返せたか?!」

切羽詰まった表情の山茶花に、サイは瓶を見せる。

「大丈夫、連れて帰ってきた」

山茶花はそれを聞き、ふっと体の力が抜けたように足を崩し脱力した。
サイは焔伽の横に座り、アカネはサイの向かい側に座った。サイが瓶を開け、アカネが解除の呪文を唱えると、中から魂がふわりと舞い出た。アカネがそのまま誘導するように焔伽の胸元へ手を当てると、吸い込まれるように魂が焔伽に溶け込んでいく。
その様子を呼吸も忘れて見つめる山茶花の手の中で、焔伽の手がぴくりと動いた。




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