焔伽の魂を取り戻す為に、サイとアカネは陰にいた。
夜中の陰は危険だが、明日の夕暮れまでに取り戻さなければ焔伽は本当に死んでしまう。アカネを連れていることに少々不安は感じるが、二人は陰を歩き続けた。

「どんな黄泉だったの?形だけでも」

「そうだな…人型…いや、猿みたいな感じだ。アカネの腰くらいまでしかない小型の黄泉だった」

チラリとだけ見た黄泉の情報だが、人型と分かっているだけでも有り難かった。
陰に蔓延る黄泉は多種多様。形も様々だが、大抵は異形の者だ。
人型やそれに近い形は妖でも少なく、当然黄泉も少ない為見分けやすい。

夜に力が増す黄泉達は、陰を歩き回るサイとアカネを好機とばかりに襲う。
アカネは術で、サイは刀で慎重に斬り倒していく。
サイが手を貸さなくても、守らなくても、アカネは一人で黄泉達を倒している。再会してからアカネが戦うのを初めて見たが、離れていた三年間で彼女も強くなったらしい。
背を預けられるくらい頼もしい姿に、サイは微笑む。

「強くなったな」

「えっ、ほんと?…っわあ!!」

サイに褒められて気が緩んだのか、術が誤作動してサイを襲う。火の弾を間一髪しゃがんで避け、サイは苦笑いした。

「けどドジなところは相変わらずか」

「ごごごめん!大丈夫?!」

「ん、大丈夫だ」

笑って立ち上がったサイは、向かい合うアカネの背後の影と目が合い、笑みを消す。
自分の背後を見たまま固まったサイの視線を追ってアカネが振り返ると、一匹の黄泉が宙に浮いていた。
小型で猿のような見た目。手足は指が三本ずつだ。

「サイ、こいつ…?!」

「ああ、間違いない。やっぱり出てきたか…」

サイは刀を構える。
だが、どうすればいいのだろう。
こいつをこのまま斬って、魂は無事返るのだろうか。もしこの黄泉ごと魂まで斬ったりしたら、洒落にならない。
黄泉はサイに両手を伸ばし、次の瞬間空気砲のような衝撃を放つ。
あれに貫かれたら魂を奪われる。サイは身軽に身を翻し、それを避けた。
どうするか考えるサイの側で、アカネもじっと黄泉を睨む。そしてハッと目を見開いた。

「サイ!あいつの中に魂が見える!」

「なに?!」

太陽神だからなのか、アカネには命の光が見えるようだ。

「あいつの中にあるよ。ひとつじゃない…すごく沢山」

アカネはじっと目を凝らす。
恐らくあの黄泉が今まで襲った者達の魂だ。焔伽の魂も、あの中にあるはず。

「斬らない方がいいのか…?」

二人が会話している間にも、次々と黄泉は攻撃を仕掛けてくる。サイしか狙っていない辺り、やはり黄泉はサイの魂に興味があるのだろう。

「黄泉の中にある…黄泉の中…中か…」

アカネはぶつぶつと呟き、思い付いたようにサイを見た。うまく攻撃をかわしているサイに聞こえるように、声を張り上げる。

「サイ!もしかしたら、魂はあの黄泉に封印されてるのかも!」

「、っ…封印?」

着地し、受け流しながらサイは問い返す。

「うん、あいつきっと、自分の中に封印してるんだよ。だからやっぱり斬っちゃ駄目!」

「そうか…!しかし、ならどうするかだな…!」

いつまでもサイを囮にしていては、流石に危ないかもしれない。
アカネは眉を側め考える。
封印されているということは、魂を解放すればいい。

「出来るかな…」

アカネは印を組み、術を唱え始める。
太陽神は封印術が使える唯一の神と言われており、最も得意とするのもまた封印術だ。
同じく、解除の術も出来る。
アカネは黄泉が自分に使っているであろう封印術の種類を読み、反対呪文を唱えていく。
やがて足元に陣が広がり、術が発動した。
アカネが黄泉に向かって腕を振ると、光が黄泉に飛び、ぶつかって破裂した。
それと同時に、黄泉から魂が一気に溢れ出す。





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