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サイは、焔伽が倒れる間際のことを出来るだけかみ砕いて話した。
巨大な黄泉の融合が解け、個体に戻った黄泉一匹のたった一撃で、焔伽は倒れた。
「その黄泉、焔伽になにをしたのかわかりますか」
サイは視線を落とし、当時の状況を思い出す。
サイが振り返った時、焔伽はサイと黄泉の間に立ち塞がった。
そして、黄泉が放った何かを受けた。それは焔伽を貫通していたように思う。そして焔伽が倒れ、自分が駆け寄る…。
サイはそこでハッとした。
焔伽に駆け寄る最中、光るなにかが横を通り過ぎなかったか?
そしてそれを握って、黄泉は消えなかったか。
「なにか…なにか光るものを見た。黄泉が消える間際に、光るものを持って行った」
それを聞いた黨雲は目を細める。黨雲の中で、全て合点がいったようだ。
「恐らくそれが、焔伽が目覚めぬ原因。やはり焔伽は死んではおらん。黄泉に魂を持って行かれたのだろう」
「何…?!」
サイを始め、アカネも姫宮も驚きを浮かべる。
「あの光は、焔伽の魂だった…ってことか」
「恐らく。今のこの焔伽は、幽体離脱に近い状態にあるのではないだろうか」
黄泉の能力は多種多様だ。
人の魂を奪う妖なんかは、中つ国にも存在する。黄泉は元々妖なのだから、有り得ない話ではない。
「それじゃ…魂を取り戻せば焔伽は目覚めるんだね?!」
アカネが希望に笑みを浮かべると、黨雲は渋い表情のまま腕を組んだ。
「どしたの…?」
黨雲は不安気な表情になったアカネを見、そして焔伽に視線を移す。
「死んでいないとはいえ、この体は死体と変わらぬ。二、三日もすれば腐り始め、魂が戻ったとて二度と目覚めぬだろう。文字通りの死を迎える」
静かに聞いていたサイが、真っすぐ黨雲を見つかる。
「期限は」
「死後硬直などの危険を考えて…明日の夕暮れが限界だろう」
明日までに魂を戻さなければ、焔伽は本当に死ぬ。
サイは部屋から庭に視線を移す。空はもう日が沈みかけている。あと丸一日で、魂を取り戻さなければならない。
「あと一日しかない…」
アカネがそう呟いた直後、慌ただしい足音と共に山茶花が飛び込んできた。
「山茶花!」
見上げるアカネに山茶花は一瞬目を落とし、直ぐに部屋に横たわる焔伽に留める。
「…風の気配が変わったから、何かあったんじゃねぇかと思って来てみれば…」
静かで、どこか力無い足取りで焔伽の側に歩き、ゆっくり座る。
焔伽の身になにかあったことを、風が知らせたのだろうか。
山茶花は何も言わず、そっと頬に触れる。そこからは、感じられるべき体温を感じなかった。
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