「あっ、サイ!おかえ…り…」

駆け寄ってきたアカネは、サイにおぶられた焔伽を見て笑顔を消す。

「焔伽…?!」

「アカネ、姫宮と黨雲を呼んでくれないか」

「…っ、わかった!」

状況は理解していないが、焔伽の一大事だと感じたのだろう。アカネは頷き、屋敷の奥へ走って行く。
サイは近くの部屋に焔伽を運び、布団を敷いて横たえる。
程なく姫宮と黨雲が駆け込んできた。その後にアカネが続く。

「焔伽!」

姫宮は目を閉じた焔伽を見るなり、隣に駆け寄り容態を確認する。
そして、目を見開きサイを見つめた。

「…サイ…」

「……、ああ」

困惑と悲しみに目を見開いたままの姫宮と、小さく頷いたサイを交互に見て、アカネはサイの隣に座り、サイの袖を引く。

「ね、ねぇ、焔伽…どうしたの…?」

心配と不安でいっぱいのアカネをちらりと横目に見、サイは膝の上で拳を握った。

「…死んでる」

アカネが瞳を揺らし、目を見開いたのを感じる。
袖を掴む手が離れ、アカネはゆるゆると焔伽に近付き、顔を覗く。

「…焔伽…?…焔伽!ねぇ、嘘でしょ?!」

必死に揺さ振り、起こそうとするアカネを黨雲が優しく引き離す。

「焔伽!…焔伽!!」

目に大粒の涙を浮かべたアカネをサイは抱き寄せる。カタカタと震える肩をあやす自分の手も、震えていた。
姫宮も動揺しているが、強い精神力でしっかりと焔伽を診ている。
全体の様子を診た黨雲は、ひとつ息を吐いた。

「……ふむ…」

「どう…なんだ、焔伽は本当に…」

サイが問うと、黨雲は渋い表情で振り返った。

「何とも言えん」

何とも言えない。
つまり死んだとは言い切れない。
鼓動は止まり、呼吸もしていない。そんな人間を診てそう言うということは、まだどうにかなるかもしれないということではないか。
サイは最後の希望に縋るように、そう思った。

「焔伽は死に至る傷は受けておらん。内臓も問題なさそうだ。…少し前に、姫宮と話していたことがある」

黨雲の言葉に、姫宮はハッとする。

「症状のない、死体…」

呟いた姫宮に黨雲は頷く。
サイもアカネも、息を止めて黨雲の言葉を待った。

「少し前から、度々不可解な死体が上がっているのだ。外傷はなく、臓物も健康。なのに死んでいる…そんな隊士達が、先日からちらほらいてな」

「それって…」

焔伽を見るアカネに、黨雲は頷く。

「そう、焔伽も彼らと全く同じなのだ。症状のない死体、私も姫宮も、ずっと疑問に思っていた」

「サイ、焔伽はどうしてこうなったんです?その時、何がありました?」





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