目を開けない。
呼吸も、鼓動もない。
今サイの腕の中にいる焔伽は、死んでいるという言葉が一番適切だろう。
死、というその一文字がサイの頭の中を通り過ぎていく。風が擦り抜けるように、滞りなく。
そんなはずない。死んでなどいない。
焔伽は怪我こそしているが、致命傷になるような傷は負っていない。
けれどその体は力無く、重力に任せるままピクリとも動かない。

「焔伽…、なあ、焔伽!」

強く揺さぶっても、目は開かない。
揺れにより顔の向きが反対になっただけ。

「焔伽…!死ぬな焔伽!」

焔伽がこうなった理由はわからない。
サイの心に後悔が押し寄せる。
何故あの時背後の黄泉に気付けなかったのだろう。
何故素直に謝ることが出来なかったのだろう。
波のように次々と押し寄せる後悔に、視界が霞んでいく。

「お前、何で俺を庇ったんだ…なんでこんな…」

こんな駄目な自分を命懸けで守ってくれたんだ。
そう言っても、焔伽はきっと「親友だからな!」と笑って答えるのだろう。
焔伽はいつも、サイを大切に思っていた。サイ自身もそれは強く感じていた。
なのに、最後の最後まで振り払ったままだった。親友の優しい心を踏みにじってばかりだった。
恐らく、今までずっと。

「…信じないからな。お前はこんなところで死ぬような奴じゃない」

自分に言い聞かせるように焔伽に語りかけ、その体を背中におぶる。
とにかく今は陽に戻る。
それしかない。死の原因がわからない。サイには、焔伽が本当に死んだとは思えなかった。
隊士達によって、融合していた黄泉はあらかた片付けられていた。
もう放っておいても、彼らが全て始末するだろう。
サイは落ちていた焔伽の刀を拾い、陽に向かって歩く。

そういえば、以前焔伽にこうしておぶって運ばれたことがあった。
そう、確か初めて犬神山に登った時だ。毒を受けて意識を無くしたサイを、焔伽が運んでくれたのだ。

「俺はお前に、助けてもらってばかりだな」

躓いてばかりのサイに、いつも惜しみなく手を差し延べてくれた。背中を押してくれた。
サイは、焔伽になにをしてやれただろう。
殆ど思い浮かばない。

これは、大切なものを蔑ろにしてきた罰なのだろうか。
ならばその罰は、何故自分に当たらなかったのだろう。
それもまた、焔伽が助けてくれたからだ。
そうでなければ、きっと今動かなくなっているのはサイだった。

情けない思いに歯を食いしばり、朱雀門を潜った。





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