陰には黄泉が蔓延っていた。
前からそうだったが、成る程桁が違う。
生きているものの気配に集まる下等の黄泉は、相手が神か人間かの区別は出来ないらしい。
次々と湧いて出ては二人に襲い掛かる。
それを斬り伏せながら、しばらく荒野を進んだ。

やがて砂埃が舞う中、防衛軍の隊士と巨大な黄泉が戦っているのが視界に入る。
あの膨れ上がった黄泉、あれが今回の標的らしかった。何十もの黄泉が融合して生まれる巨大な黄泉。
苦戦している隊士達の元へ、サイと焔伽は駆け出した。
近くに来れば、よりその巨大さが身に染みる。首を真上に上げなければ黄泉の目が見れない程だった。

焔伽は風を、サイは右眼を開き炎を使い、黄泉に斬り込んでいく。
だが、これだけの巨体。多少の傷ではビクともしないのか、痛覚がないかのように退け反らない。

「頭やっちまわねぇと駄目だな」

「そのようだな」

確実な急所を突いて一撃でやるしかない。その考えはサイも焔伽も同じだったようだ。
焔伽は二本の刀を振り、目を閉じて風に集中する。
自分の周りを渦巻く気配に、目を開いて刀を構えた。

「サイ!乗れ!」

サイは瞬時に理解したのか、焔伽に駆け寄り、焔伽が刀を振ると同時にその峰の上に飛び乗った。
風の力を織り交ぜて斬り上げられ、サイの体が宙に舞う。
黄泉の目線を追い越し、サイは落下と同時に刀に渾身の炎を宿す。

「はぁっ!!」

頭から二つに裂くように、サイは黄泉を斬り裂いた。上から下まで一直線に斬り、渇いた地面に膝を折って着地する。
そのまま黄泉を見上げると、二つに裂けた体が左右に倒れようとしていた。
しかし。

「なに…?!」

裂け目から、融合していた黄泉が次々と溢れ出す。今の一撃では、融合を解いたに過ぎなかったのか。
バサバサと降ってくる黄泉を再び斬り倒していく。個体に戻った為、一体一体は弱い。これらを始末すれば、最終的にはあの巨大な黄泉も倒したことになるだろう。

隊士達の手もあって、大方片付いた時。黄泉と戦うサイを、離れた場所から別の黄泉が狙っていることに焔伽は気づいた。
ハッとしてサイを見るが、サイは気付いていない。
黄泉がサイに向けて手を翳した瞬間、焔伽は目の前の黄泉を斬り伏せ、地を蹴った。

「サイ!!危ねぇ!!」

サイが振り返るのと、黄泉が攻撃するのと、焔伽がその間に入るのは同時だった。
サイを狙った黄泉の一撃は、焔伽に当たる。痛みは全く感じなかったが、何かに貫かれたような感覚だった。

「油断してんじゃ…ねぇよ、バカ…」

その一撃で全身の力が抜け、膝を突いて地に伏せる。

「焔伽!」

サイはすかさず反撃したが、何か光るものを握って黄泉は去っていった。闇に溶けてしまった黄泉に舌打ちし、倒れる焔伽に駆け寄る。

「焔伽!しっかりしろ!」

仰向けに起こし、体を揺さぶる。だが焔伽は目を閉じたまま動かない。
サイは焔伽の体を見るが、大きな怪我も打撲もない。けれど、焔伽はピクリともしなかった。

「焔伽…?どうした、焔伽!」

再び体を揺さぶり、サイは気付いた。
呼吸をしていない。
まさかと思い慌てて胸に耳を当て、目を見開いた。
そこからは本来聞こえるべき音がしない。
心臓が、止まっていた。





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