翌朝。
刀を差して風の宮を出ようとする焔伽を、山茶花は見送りに来ていた。
あれこれと考え事をしていたせいで、昨日はろくに眠れなかった。割りと酷い顔になっているのは分かっていたが、今日は少し不安で様子を見に来ざるを得なかった。

「朝早ぇのに見送りありがとな、サザンカさん」

「いや、気をつけろよ。最近は黄泉の力が更に増している。ナメて掛かるな」

油断だけはするなと、釘を刺しておく。
焔伽は笑みを浮かべて頷き、風の宮を出た。

「焔伽!」

呼び止められ、焔伽は振り返る。山茶花は少し躊躇い、首を振った。

「…いや、いい。いつでも言えるからな。また今度にする」

何も仕事前に探りを入れる必要はないだろうと、自分を諭し苦笑いする。

「?おお。じゃ行ってくんな」

「ああ」

何のことかさっぱりわからない様子の焔伽は、笑みを残して歩いて行った。
帰ってきたら、少し聞いてみようと、山茶花は思う。
女に甘えるのは山茶花だけなのか、とか、自分のことをどう思っているのか…山茶花は知りたかった。
そんなことを問う自分は正直想像するだけで顔から火が出そうだが、ずっともやもやしているよりは良いような気がした。
あれこれと悩むのは、自分らしくない。
山茶花はそう言い聞かせ、帰ってきた焔伽になんと切り出そうか考えながら、しかしこんな顔では情けないと思い、再び布団に潜るのだった。





風の宮を出た焔伽は、いつも通り朱雀門へ向かった。すれ違う隊士達の数は、以前より増している。運ばれてくる怪我人や遺体もまた然り。
動かなくなった仲間を泣きながら運ぶ隊士達の姿から、思わず目を背けたくなった。
あまり身近に感じていなかったが、やはり戦場なのだと痛感する。高天原は、昨日会った奴が今日死ぬかもしれない場所になってしまったのだ。
以前の優雅で平和な高天原を知る焔伽は、酷く心が痛んだ。

「早く黄泉の大将倒して、終わらせねぇとな…」

独り言のように呟き、門の前で止まる。
開かれたままの朱い朱雀門の前には、サイの姿があった。今日の討伐は二人でというのが天照からの伝令だ。だから待っていたのだろう。

焔伽を視界に捉えると、サイは直ぐに門の向こうに目を遣る。

「行くか」

短いその言葉に、焔伽もサイの顔を見ないまま

「ああ」

と頷いた。
互いに気まずさを感じたまま、共に朱雀門を潜った。




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