「心配が迷惑な訳じゃない。こんなに仲間に思われて、幸せだと思う。…大切だからこそ、話せないこともあると、分かってくれないか」

視線は焔伽に注いだままだったが、サイはこの部屋の者全員に向けて言った。

「…だったら、これみよがしに態度に出すのやめろ」

「焔伽!」

今のは言い過ぎだと、姫宮が珍しく声を荒げる。サイの胸倉を掴む手を離し、音を立てて障子を開け、黙って部屋を出て行く。
嫌な沈黙の中、サイは静かに着物の乱れを直し、部屋を出て焔伽とは反対の方向へ歩いて行った。

嵐が過ぎ去ったかのように、室内は静まり返る。だがその沈黙は、嵐の後のような穏やかなものではない。
アカネは膝の上で両手をきつく握り、唇を噛む。

あの二人が、あそこまで揉めるとは思わなかった。恐らくここにいる誰もが予期していなかったことだろう。
誰が見ても、サイと焔伽は仲良しで、いつも笑い合う親友だ。
喧嘩を見るのは、初めてだった。
ただの喧嘩なら、いい。
だがアカネは、このまま二人の間についた亀裂がどんどん深まっていくような気がしてならなかった。

「親友だからこそ、己にすら何も聞かせてくれないということに傷付いたのだろうな、焔伽は」

綺羅の呟きに、アカネは頷いた。
焔伽はいつだって、サイに隠し事はしない。それは、サイが受け止めてくれることを知っているからだ。
だけどサイは違う。
いつも受け止めようと待っている焔伽の横をすり抜け、一人の道を選ぶ。

信頼されていないのか、受け止めきれないと思われているのか。
いずれにせよ、焔伽は自分自身の技量不足に腹が立っているのだ。親友である自分さえもが、サイの悩みの種になっていることが悔しいのだ。

今回の一件だけではなく、長年積もり積もった思いが、破裂した。
先程の焔伽はそんな感じだった。

「要はどっちもが頑固で馬鹿なんでしょ。ったく、面倒臭いなぁ…いった!!」

はいはい、と欠伸しながら言った影熊に綺羅の拳骨が落ちる。

「全くお前は…場の空気を読め」

呆れた顔で影熊を見る綺羅の手前で、腕を組み目を伏せていた雫鬼が瞼を開く。

「どちらの言い分も分かる。だからこそ、難しい、複雑なことなんだろうな」

仲間もサイを思い、サイも仲間を思っている。
なのにぶつかる。
人間の心の難解なところだった。

「私達は、待つしかないのでしょうか…」

姫宮が独り言のように呟く。
二人が再び笑い合う日を。
サイが自ら語ってくれる事を。
アカネは歯痒い思いを噛み締めながら、祈るように太陽を見上げた。





[ 146/171 ]

[*prev] [next#]




第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -