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影狼丸とサイの関係を、言ってしまって良いのだろうか。
これはサイと影狼丸の問題であって、ここにいる仲間には何の関係もないことだ。
影狼丸に真実を聞かされてから、サイは色々考えた。影狼丸への思いが根本から覆り、だが影狼丸が黄泉の首領であることは事実のままで、自分がどうしたいか悩んでいた。
確かに、悩んでいたが。
仲間達には、すべて関係ない話だ。
仲間達にとっては、影狼丸もただの黄泉の一人に過ぎない。
排除の対象でしかない。
サイにとってもそうだったが、それはあの日覆ってしまった。
サイには、もう影狼丸を他の黄泉と同じ黄泉だとは思えなかった。
自分の出生にまで関わっていた存在なのだ。
自分が黄泉にしてしまった存在なのだ。
なのに影狼丸はサイが生きていて嬉しいと言った。ありがとうと言って泣いた。
その言葉の重さは、図り知れない。
排除など、出来ない。
考えれば考える程、神と対立する道しか浮かんでこない。
神々を助けたいという気持ちに嘘はない。
だが恩ある神々を振り切ってでも、どうにかしたいと願う自分も、確かにいるのだ。
これらはサイの私情でしかない。
影狼丸に情が湧き、どうにかして助けてやりたいと思うことは、サイの個人的な願いだ。
それに仲間を巻き込み、振り回して良いはずがない。
彼らに余計な悩みを増やし、神との諍いさえ生んでしまうかもしれないのだ。
それぞれが今、自分の成すべきことに精一杯だ。それが分かるからこそ、サイはこの思いを誰にも話さなかったのだ。
苦しくないわけではない。だが、嫌な苦しさではなかった。
だから一人で抱えていても、辛くはない。
「個人的なことだ。わざわざ言う必要はない」
仲間達の視線が痛い。
受け止めようとしてくれている彼らの手を、自分で振りほどいているのだ。
「心配はいらない」
「…っ…何でだよ!」
体が大きく揺れたと思えば、サイは焔伽に胸倉を掴まれていた。
姫宮とアカネが慌てて動こうとしたのが、視界の端に映る。
今視界の大半を占めている焔伽は、ずっと共にいたサイでも見たことがない程、怒りに満ちていた。
眉間に刻まれたしわは深く、普段穏やかな空色の瞳は瞳孔が開いている。
対する自分は今とても間抜けな顔をしているのだろうとサイ自身も思ったが、驚きで頭が一杯だった。
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