まるでサイの存在を否定するかのような言い方に、無意識に心臓が速くなる。
知りたかったことを聞いているのに、これ以上聞きたくないような、嫌な感覚がした。

「中つ国に銀髪の人間は存在しない…前に言ったな」

「ああ」

「お前…いや、サイも生まれた時は黒髪だった。サイの両親もまた、黒髪だ」

サイが知らない両親のことを、影狼丸は迷いもせず口にする。嘘やはったりを言っているのではないと、何故かサイは思った。

「俺は21年前、中つ国に生を受けた。サイという名も付けられ、両親に愛され…幸せに生きていくはずだった」

だが、と、影狼丸の目が微かに曇る。

「俺は生まれて数日で、病にかかった。治る見込みはなかった。だが両親はどうしても我が子助けたいと、闇に手を染めてしまったんだ」

中つ国のとある呪術者に、サイの両親は縋ったのだという。
神に祈っても助からない。両親にとって、頼れるのは当時"救済者"と評判だったこの呪術者だけだった。
呪術者は、降霊術を使い人々を助けていた。天から霊を呼び、その魂を分けることで、命を長らえさせる方法を使っていたのだ。ただし術を施された者の記憶がなくなるという欠点があった。

「だがそれは表向きだ。呪術者は魂を癒してなどいない。すり替えることで、あたかも死の淵にいた者を蘇らせたように見せていたんだ」

「……まさか、」

「…そうだ、呪術者により、俺とお前の魂は入れ替わった」

呪術者は父親の魂を生贄に、赤子の魂と性質の酷似した魂を選び、降霊した。
まだ生まれる前のサイの魂を、死にかけていた影狼丸の魂と入れ替えたのだ。
記憶がなくなるというのは都合の良い言い方で、本当は"全く別の人間になる"ということだった。

「呪術者は、妖の手を借りて術を使っていた。生贄になった父親の魂は妖に喰われ、すり替えられた俺の魂もまた、妖に飲まれつつあった」

自分の体が他者に奪われ、死の底に引きずられる中、影狼丸の魂が必死に伸ばした手を掴もうとしてくれたのは、サイの魂だった。

「光の中から、お前だけが、俺に手を伸ばしてくれた。興味本意だったのかもしれない、遊ぼうと呼んでいる気さえした。無邪気に笑うお前の手を掴もうと、俺は必死に生きたいと願った」

だが、現実は残酷だ。
生きたいという影狼丸の強い"願い"は、"執着"に変わった。
伸ばしあった手は触れる事なく、影狼丸の魂が妖に食いつぶすされる。人間に生まれた影狼丸だったが、五臓六腑の全てを妖に喰われ、融合し、邪悪な妖気を持った魂になった。




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