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「また…ですね」
「ああ、これで三人目だ」
姫宮と黨雲は、防衛軍の隊士の遺体を前に呟いた。
黄泉との戦いが始まってから、死者の出ない日はない。隊士の命を救っても救っても、また彼らは命を捨てる為に戦場へ赴くのだ。
先日助けた者が後日遺体で連れて来られる…そんなことを、もう何度も体験していた。
黄泉の能力は様々らしく、遺体についた傷も多種多様だ。
だがここ数日、奇妙な遺体が発見されている。
「目立った外傷はありません…死因は何なのでしょう…?」
見るのが三度目になる、同じ症状の遺体。いや、症状が「ない」のだ。死に至った原因が分からない遺体が、ここ数日上がっている。
「かすり傷はあるが…致命傷になりそうな傷はないな…精神をやられたのか…?あるいは、取り憑かれて死んだか…」
「ですが取り憑かれて死んだ場合、この遺体は黄泉の器になっていなければおかしいです」
ふむ…と、黨雲も分からないといった様子で腕を組んだ。
これらの遺体は不自然なだけに、傷だらけで発見された遺体よりもどこか不気味だ。
「もしも精神を喰らう黄泉がいるのなら…ある意味一番警戒しなくてはなりませんね」
肉体的損傷を与えてくる黄泉よりよっぽど質が悪い。
精神に攻撃してくる敵の怖さは、姫宮は身をもって知っている。
「今後も増えるようなら、対策を練らなければなりませんね」
「ああ。ひとまず戻るか。今わかりそうな事はない」
「はい」
姫宮は黨雲について、屋敷に戻る。遺体安置所というのは、やはり長居したいとは思えないものだ。
外を歩きながら、姫宮は大きく息を吸った。
仲間達は毎日、それぞれが出来ることをやっている。共にいられる時間はあまりないが、彼らの顔を見るとやはり安心出来た。
最近アカネと会えていないな、と思いながら、屋敷に入る。
黨雲とは玄関で別れ、姫宮は自分に割り当てられた部屋へ向かった。
と、部屋へ向かう途中の廊下で、見知った顔と鉢合わせした。
「雫鬼さん、今お戻りですか?」
前から歩いてきたのは雫鬼だ。
姫宮より少し前に戻ったのだろうか、サイの部屋から自室に戻る途中のようだ。
「先程済ませてきた。姫宮も今帰りか」
「はい、お疲れ様です」
「お前もな」
微笑み合い、他愛もない会話をしてすれ違う。ふわりと香る残り香に、姫宮は振り返った。
「お待ち下さい。雫鬼さん、怪我をなさっていますね?」
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