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「とんだ醜態を晒してしまい…申し訳ありません。ご無事でよかった…!」
絢鷹は眉を側め、泣きそうな笑みを浮かべて愁麗を見つめる。
愁麗もまた瞳を揺らしながら、首を振った。
「いいえ…貴方もよく…ご無事で…」
「愁麗」
「はい」
いろはに呼ばれ、愁麗は頷く。
ここに呼ばれた訳を理解したからだ。
絢鷹の傷ひとつひとつに、治癒術を施していく。
「酷い怪我を…黄泉との戦いで…?」
手を休めないまま言う愁麗に、絢鷹は苦笑する。
「お恥ずかしながら、黄泉ではありません。陽の神々…特に軍内部は今、ごたついてまして」
絢鷹はここまでの経緯と、今の自分の考えを愁麗に話した。
治療を終えた愁麗は真剣に絢鷹の言葉を聞き、頷く。
「成る程…やはり、神と黄泉が手を取り合うのは簡単ではないのですね…」
「姫様も、和解方面の考えをお持ちなのですか」
「はい。ここに連れて来られてから、わたしも少なからず黄泉の行動を見てきました。ですが…」
愁麗はいろはを見る。
その視線に対しいろはは笑みを浮かべて首を傾げた。
愁麗は穏やかに微笑み、絢鷹に視線を戻す。
「黄泉はわたし達が思っていた程、悪しき者ではありません」
黄泉にも心があった。感情があった。仲間を思うことも、悲しんだり喜んだりすることも、神と変わらない。
それを知ることが出来た。
「攫われなければ、知らないままでした。攫われてよかったとは言いませんが、黄泉の姿はずっと分かるようになりました…出来るなら、争いは避けたいです」
愁麗と絢鷹の意見は一致しているようだ。
絢鷹はまさかここで愁麗の賛同を得られるとは思っておらず、驚きつつも嬉しく思う。
こうやって少しずつ、理解者を増やしていく他、今は方法がないのだから。
「いろは、絢鷹をどうするつもりなのですか?」
「ん、どうするもこうするも考えてなかったァ」
「でしたら、絢鷹を解放して下さい。彼に伝言を頼みたいのです…天照に」
「姫様…」
愁麗の真剣な瞳を見て、いろはは頭をガリガリ掻く。そして、頷いた。
「わーったよ。もう少ししたらなァ」
いろはにとっても、絢鷹は使える存在だ。
もう少し意見を交わし、影狼丸達黄泉の姿を見せたい。
三人の間には敵意がない。
対立する二つの勢力は、ゆっくりだが着実に近づいているようだった。
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