地下へ入ったいろはは、以前愁麗を捕らえていた牢に絢鷹を下ろす。
壁に凭れさせるように座らせ、両腕を上げて壁に固定し、手首を影で拘束した。

「うっし。んでー次はー」

いろははきょろきょろと辺りを見渡し、姿が見えないことを確認すると大きく息を吸った。

「しゅーれぇええ!!どこだああああ!!」

発せられた大声は地下に反響し地面の砂を揺らす。
その声にピクリと、絢鷹の体が反応する。

「…うっさいねん…お前はほんまに…!」

「ん?」

いろはが振り向くと、絢鷹は目を開けていろはを見上げていた。どうやら気が付いたようだ。

「よぉ絢ァ。そそられる眺めだぜぇ?」

「…ここは?」

「ありゃ、無視かよォ。ここは俺様達黄泉の本拠地だぜぇ?」

「!黄泉の…!」

絢鷹はハッとし、辺りを見渡す。牢以外何があるという訳ではなかったが、黄泉の本拠地にいる、ということがとても重要だった。
神々がどれだけ陰を探っても見つからなかった黄泉の本拠地。
一体どこにあるのだろう。

「場所が気になるかぁ?教えたところで、お前ら神は絶対にここにゃ来れねぇぞ」

自信有り気に言ういろはを見て、絢鷹は目を細める。

「どういう事や?」

「ここは黄泉が作った闇の中にあるんだ。出るのも入るのも、黄泉が持つ闇の力がいるんだよ。陰にあるけど陰にはねぇ、だから探っても無駄だァ」

「…そうかどうりで…見つからん訳や」

いろはは目線を合わせるようにしゃがみ、絢鷹の傷を見る。あちこちに血が滲んでいるが、死に至る事はなさそうだ。
麻痺毒も今は抜けている様子に、笑みが浮かぶ。

「何がおかしいねん」

「俺様の可愛いネコちゃんが無事そうで喜んでんだよ」

「アホか」

白い目で見られ、いろはは笑う。そんな様子に呆れたように、ひとつため息を吐いて絢鷹も笑った。
意識をなくす前のことは覚えている。何はともあれこの黄泉に助けられたことに変わりはない。

「…おおきにな、いろは」

「気にすんなァ。つかお前何で仲間に追われてたんだ?」

いろはは分からないとばかりに首を傾げる。
同胞を手に掛けようとするなど、いろはにとって最も理解し難いことだ。

「黄泉と言葉を交わした事が罪になった」

絢鷹の言葉を聞き、しばし沈黙する。そしてぐいっと身を乗り出した。

「え、そんだけ?」

「そんだけや」




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