黄泉の世界にいろはの足音が響く。
足音を追うように、ぽたぽたと血が滴り落ちた。
いろはの血ではなく、肩に担いだ絢鷹のものだ。意識を手放している体は揺さぶられるままになっており、長い髪は歩を進める度に揺れた。

広間に入ると、中にいた影狼丸とリンカの視線がいろはに注がれる。
そして、いろはに担がれたものに視線を移したリンカはぎょっと目を見開いた。

「ちょっ…!いろはアンタ!それ神じゃない、何そんなの持ってきてんのよ!」

ガタッと音を立て、リンカは立ち上がる。
影狼丸は眉ひとつ動かさない。

「まーまー落ち着けってぇリンカ。こいつァ瀕死だし、今すぐ暴れ出したりしねぇよ」

何事もなく答えるいろはに、リンカは眉を側めながら近づく。
汚らわしいものを見るような目で絢鷹を見遣り、眉をぴくりと動かした。

「…こいつ、見覚えあるわ。前に戦った」

リンカが山茶花に憑いた時に、少しだが手合わせしたことがあった。

「連れてきた理由は何なのよ。アンタの性欲処理とかだったらぶっ飛ばすわよ」

「なははっ!まぁそれでもいいんだけどなァ!………こいつは、俺様達黄泉に耳を貸してくれた」

それまでいろはを睨んでいたリンカの顔が驚きに変わる。目を丸くして、再び動かぬ絢鷹を見た。

「神が…あたしらの話を聞いたの?」

「ああ、まだ交わした言葉は多くないが、こいつは俺様達を理解しようとしてくれた。使えるだろォ?」

神の中に、黄泉の意見を聞いてくれる者が現れる事は、黄泉達にとって好都合だった。

「理由は分からねぇが、こいつ神に追われててなァ。何か流れて連れてきちまったわ」

リンカが意見を求めるように後ろに座ったままの影狼丸を見ると、伏し目がちだった影狼丸の赤い瞳がいろはを捕らえる。

「拘束して牢へ入れておけ。傷の手当ても許可する」

静かなその言葉を聞いたいろはは、ニィ、と口角を上げて地下へと歩き出した。
リンカはその背中を見送り、再び影狼丸の斜め右の椅子に座る。

「リンカ」

まだ少し腑に落ちない顔をしているリンカに、影狼丸は言葉を掛ける。

「俺達の目的の為には、喜ばしいことだろう」

「それは…そうだけど…」

人一倍神嫌いなリンカは、素直に受け入れられない様子だった。

「だからって、あたしは神に優しくしたりしないわ」

意地を張ったその言葉に、影狼丸は僅かに笑みを浮かべ、再び目を閉じた。




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