逃げる絢鷹を三番隊隊士達が追撃する。容赦なく矢が放たれ、絢鷹の横をすり抜けていく。
このまま市街地に出れば、無関係な神々にも被害が出てしまいかねない。
絢鷹は意を決し、朱雀門を飛び越える。
陰に逃げ込んだ絢鷹を追うことに隊士達は一瞬躊躇ったが、そのまま門を潜った。

隊長である絢鷹を捕らえることは容易ではない。故に隊士達の攻撃には容赦無かった。
絢鷹は逃げ回り、反撃はしない。
彼らには何ら罪はない。それに同胞である。怪我をさせるのは本意ではなかった。
だが、自分が追われていることに納得している訳でもなかった。咎められる意味が、絢鷹には分からなかったのだ。

「…っ…何でああも、頑固やねん…!」

神というのは。
ほんの少し話してみれば、色々なものが見えるかもしれないのに。黄泉達はようやく、口という会話手段を手に入れたというのに。

「こんなんやから、神も黄泉もいつまでも変わらんねん…!」

永劫ぶつかり合うだけだ。
何度でも同じことを繰り返し、解決はない。

「、ッ…!」

大方回避しているが、背を向けたまま数多の矢を避けるのは難しい。
数本が身体に食い込み、血と汗が滲む。
細い隙間に入って少しでも巻こうと、絢鷹は岩の裂け目を通り抜けていく。
裂け目を抜けたところで、絢鷹は歩みを緩めた。
否、思うように走れなかった。

「……っまさか…」

麻痺毒。
絢鷹の脳裏に確信的なものが浮かぶ。
矢には麻痺毒が塗られていたようだ。手足…身体の末端から、徐々に痺れてくる。
それでも逃げるが、やがて膝がガクリと地に落ちた。

「…くそ…っ」

「…絢?」

地を睨んだ絢鷹に影が掛かる。
反射的に見上げると、立っていたのはいろはだった。
まだこの辺りをうろついていたのか。
面倒な時に面倒な奴に会ってしまった。迫る追っ手、いろはの相手をしている余裕はない。

「なんだ…その怪我」

「何もない…黄泉にやられた…だけや」

舌にも痺れがきている。
絢鷹は眉を側めた。

「嘘だなァ、黄泉に弓使う奴はいねぇんだよ。…ってことは…」

「違う!……違う…」

認めたくなかった。
神に追われている事実、国を思った行動で処罰されかけているという事実。高天原が、神があまりにも冷たく、融通の効かない存在だという事実。
何故悪い。分からない。
いつまで繰り返すつもりなのだろう、いつまで全否定し続けるのだろう。その為に、この先何人の命が犠牲にならなければならないのだろう。

「…お前が泣くってな、相当のことだよな」

「え…?」

見開いた目から涙が流れる。
泣いていたことすら、感覚が麻痺して気付かなかった。

「言え。誰がお前をそんなにした!」

いろはは怒りに目を見開く。赤い瞳孔が締まり、獣のような鋭さを宿す。

「言えよ…絢ァ…」

「……もう、さ……どうしたらええんか、分からへんよ…いろは…」

高天原という国が狂っているような気がして。自分が信じてきたものが嘘だったような気がして。
ただただ、つらい。





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