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「その行為が、神を脅かすことになるんや。憑かれた神の魂は弱ければ大抵死ぬ…お前らに罪無き神を殺す権利はない」

身体を求めるのは黄泉の勝手な我が儘だ。一度死んだ身で、再び肉体を得ようなど倫理に反する。
ましてや他人の命と引き換えになど論外だ。自分勝手な黄泉の行動を粛清するのは、神の立場で考えれば当然のことだった。

「神だって俺様達を殺し回るだろうがァ。殺られる前に殺るってか?」

「そうや。憑かれてからでは遅い」

「じゃあ器を手に入れた黄泉はどうなんだ?俺様みたいに、神に憑かずに自らの肉体を得た黄泉も"憑かれる前に殺す"って理由で殺られんのかァ?肉体を得た黄泉は憑く為に神を襲ったりしねぇぞ」

絢鷹は寸の間沈黙する。
どう答えれば良いのか分からなかった。
確かに肉体を得た黄泉は神を襲うことはないだろう。
だが肉体を得たところで黄泉であることに変わりはない。同じ神にはなれない。

「黄泉と神…この種族が交わらん限り、肉体を得ようが黄泉は敵や」

根本から意見が交わらない。
高天原の理では、黄泉と神が交わることは有り得ない。太古から互いに敵だと認識してきた。
黄泉と神の起源を絢鷹が知っている訳ではないが、それに関しては誰もが同じ価値観を持っていた。
黄泉と神が手を取り合う…そのようなこと、露ほども思いはしない。

「黄泉が何故、高天原に来るんだと思う?」

中つ国で死んだ者はあの世へいく。それが自然の摂理。
だが黄泉となった妖達は、その摂理に反してまで高天原にやって来る。

「黄泉はなぁ、太陽に焦がれてんだよ。ただただ焦がれて、ここへ来る」

「太陽…天照のことか」

「ご明答。高天原主神、慈母天照大神…生きとし生けるもの全ての母…そいつに縋りたくて、黄泉は高天原に来るんだよ」

「いろは…お前も?」

絢鷹の問いに、いろはは両手を上げ肩を竦める。

「さあなぁ、まぁそうなんだろうが、死んだ理由も未練も、生前の自分すら覚えてねぇ。天照に何を求めてるかは俺様自身も分からねぇよ」

黄泉の大半は自らの未練を忘れている。だがそれでも無意識に太陽を求めさ迷い、陽に近付いていくのだ。
いろははそう言う。





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