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単身で陰の探索をしていた絢鷹は、辺りの黄泉を倒し一息つく。
愁麗が攫われてからというもの、黄泉の数は以前の倍以上にもなった。倒しても倒しても、黄泉は泉の水のように湧いて出る。
中つ国で絶命した妖が、それだけ未練を遺しているのだという証でもある。
今までは愁麗が黄泉の数を調整していたのだが、今はない。黄泉は増える一方だった。
一体一体はそれ程手強くはなくとも、やはり多勢に無勢というものだ。このままでは陽に黄泉が侵入するのも時間の問題…絢鷹はそう考えていた。

「…黄泉は何がしたいんや…何を望んでんねん…」

「崇高な神サマには理解出来ねぇと思うぜぇ?」

背後から掛かった声に、絢鷹は瞬時に武器を飛ばし跳び退く。飛ばされたクナイを首を傾けて避け、にやりと笑うのはいろはだった。
やはり、あの時の傷では死んでいなかったようだ。
絢鷹は岩の上にしゃがみ、いろはを睨みながら袖から次の武器を取り構える。
そんな様子を見たいろははやれやれと肩を竦め、近くの岩に左半身を凭れさせる。

「神サマってのはどうしてそうも攻撃的なのかねぇ」

「なに…?」

絢鷹は目を細め、いろはを睨む。
殺気を出す絢鷹に対し、いろはは戦う意思すらない様子だった。絢鷹のことを滑稽だと言わんばかりの目で見ている。

「お前ら何のために俺様達を狩ってんの?楽しいから?」

「楽しい訳あるか面倒臭い。排除せなアカン存在やからや。誰かがやらなアカン」

陽に住まう神々達の安息の為、誰かが戦わなければならない。その為の防衛軍だ。

「何で排除すんの?俺様達が何かしたわけ」

いろはの目が一瞬、敵意を孕む。嫌悪にも似ていた。

「お前らは神々の生活を脅かす」

黄泉は器を求め、神々に取り憑く。黄泉が器を得る代わりに、神の魂は死ぬことになる。
そんなものを放置しておくのはあまりに危険だ。

「俺様達にも言い分ってもんがあるんだぜぇ?脅かすのはお互い様だ」

「黄泉の言い分やと?」

いろはは目を閉じ、向きを変えて背中全部を岩に預けた。

「黄泉の言葉を、お前らが一度でも聞こうとしたことがあったかァ?」

「…黄泉に口はない。言葉なんぞ知る訳が」

「だから俺様達黄泉は器を欲するんだよ。意思や思いを語れる口と、自由に動ける身体が欲しくてなァ」

神に憑く理由の大半はそれが目的だといろはは話す。




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