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「ちゃんと、話してみてはどうですか?」
混乱しているのが見ていても分かるのか、愁麗は落ち着いた声色で言った。
影狼丸は話すのをやめ、沈黙する。
「貴方にとってそれ程大きな存在であるのなら、尚更。話せるうちに、ちゃんと話すべきです」
いつでも会える。
その言葉が嘘であることを知っている愁麗は、静かにそう言った。
いつ会えなくなるか分からない。伝えたいことを伝えられないまま後悔するかもしれない。
「私は、一度失敗しましたから」
また会おう。
突然理姫に任命され、その言葉は永遠に叶わなくなった。会えなくなってから悔いてももう遅い。
愛しい姿を思い、僅かに目が熱くなる。
「貴方と"サイ"が出会ったのは、きっと偶然ではありません。出会うべくして出会ったのだと思いますよ」
ならば、その運命を無駄にしてはならない。
愁麗の言葉は真っ直ぐ影狼丸に届いた。
「話す…か。そうだな…神でないあいつなら、耳を貸してくれるのかもな」
だが、神の味方をしていることに変わりはない。
つまり同胞を苦しめているのだ。影狼丸にとってサイは特別な存在だが、その行為を許すことは出来ない。
「いずれ、決着をつけよう」
サイとのことは気になるが、それは完全に影狼丸の私情だ。
仲間達と果たすと決めた悲願…優先するのはそちらの方である。それを邪魔するのであれば、サイであっても容赦はしない。
黄泉にとって大事な時期である今、私情に流される訳にはいかない。
どこか吹っ切れた様子の影狼丸を、心配気に愁麗は見つめていた。
広間のやり取りを、扉の前で聞いていた二つの影が揺れる。
いろは、そしてリンカだった。
愁麗と影狼丸の会話が聞こえてから、入るのを止めていたのだ。
薄暗い中、二人は目を見合わせる。
「思い出す必要があるなァ。生前の俺様達を」
「…影一人に全てを背負わせる訳にはいかないものね」
生前の自分を思い出せば、生前の力を取り戻し、黄泉の能力は跳ね上がる。だが、生前を思い出しているのは影狼丸だけだ。その影狼丸が手こずる相手が出て来た今、悠長にしてはいられない。
「一刻も早く、力を取り戻さないと…でもどうしたら…」
無理に思いだそうとしても何も浮かんで来なかった。
考えても解決策が見つからないまま、二人が広間へ入ることはなかった。
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