5


優しいそよ風に、閉じていた目を開ける。
心地好い木漏れ日の中、穏やかな笑みが浮かんだ。
茶々は、あの時の自分と同じだ。
突然隊長を失い、息着く間もなく隊長を継がねばならない。
右も左も分からないまま、未熟なまま、部下の命を預からなければならない。
その責任に堪えるのは、困難なことだと思う。
けれど。

「ちぃちゃん?」

穏やかな呼びかけに、茶々は絢鷹を見る。眉を側め、不安と焦りに駆られている茶々の頭に、ポン、と手を置き、微笑む。

「ちぃちゃんはちぃちゃんの思うようにやってみたらええ」

山茶花を追いかけ、山茶花のようになろうとしている茶々。
絢鷹も、雪平を追い、彼のようになれたらと思っていた。
だが、自分は雪平ではない。雪平にはなれない。
雪平の隊長姿を胸に抱きながら、自分は自分らしく歩いていくしかないのだ。

「ちぃちゃんには良いとこが沢山ある。山茶花ちゃんが持ってなかったものも、持っとるよ」

茶々は目を見開き、絢鷹を凝視する。頭に乗せていた手を離し、薄紫色の瞳を細めにっこり微笑んだ。

「山茶花ちゃんから学んだ事を活かしながら、ちぃちゃんはちぃちゃんらしく、隊を導いたらええ。大丈夫…皆、ちゃんと応えてくれる」

茶々は僅かに瞳を揺らし、一度目を伏せた後、空を見上げた。

「私は、私らしく…か…」

今はまだピンと来ないだろう。
けれど、最初は誰でもそんなものなのだ。

「山茶花様が憧れなのはずっと変わりません。…でも、その背を見つめながら、私は私の道を行けばいいのですね」

「不安になった時は、周りを思い出したらええ。助けてくれる仲間が沢山おるから。ウチも勿論助けたる…先にここに立った先輩として」

あの時は、隊長になるなんて無理だと思っていた。
けれど今、こうして隊長として二番隊を纏めている。笑顔で集まってくる隊員達がいる。
気付いたらしっかりと、絢鷹なりの隊長になっていたのだ。

「気負わんでええ。仕事以外は、笑って過ごしたいと思うやろ?」

茶々はふっと表情を緩め、空を見上げ微笑む。

「…はい」

迷いを風に乗せて飛ばした茶々の表情は、随分と晴れやかだ。
絢鷹はその横顔を、これからどんな隊長になるのか楽しみだと、穏やかに見つめる。

そして、髪紐と髪を靡かせ、心地好そうに再び目を伏せた。





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