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「絢鷹…」

眉を側め、唇を噛みながら絢鷹は雪平の手を握る。

「お前が副隊長で…良かった…」

手を握る絢鷹の手が震えた。
ガタガタと、壊れた人形のように震えが止まらない。

「これからは、絢鷹…お前が…隊を率いていけ…」

「ウチには…ウチには無理です…隊長…!」

視界が滲む絢鷹の頬に、雪平は手を重ねる。

「…大丈夫……」

お前なら出来る。
か細く口にした直後、雪平の手は力無く落ち、瞼が閉じられた。
絢鷹は嘘だと首を振り、縋るように雪平を見つめ、上半身を起こす。

「隊長…、…隊長…?」

声が、体が震える。
嘘だ、嫌だ、信じたくない。

「待って…逝ったら嫌です…っ…雪平隊長!!」

何度揺さ振っても、声をかけても、雪平が動くことはなかった。
黄泉が標的にし、睨んだのは絢鷹だった。
雪平が間に入らなければ、自分が死んでいた。
最後まで助けられてばかりで、まだ恩返しのひとつも出来ていないのに、もうそれが叶う日は来ない。
共に笑い合うことも、その背を追うことも出来ない。

動かない体を抱きしめ、漏れそうになる嗚咽をぐっと堪え、月を仰ぐ。
泣くな。泣いてはいけない。
俺は、忍なのだから。
そう言い聞かせ、絢鷹は雪平の懐からはみ出していた髪紐を手に取る。雪平が予備に持っている紫色の質素なものだ。
絢鷹は髪の先で緩く結んでいた自らの髪紐を解き、雪平の髪紐で髪を高く結い上げる。
雪平と同じようにひとつに纏められた髪は、冷たい夜風にふわりと靡いた。

「隊長…ウチも…雪平さんが隊長で幸せでした」

軍に報告に行かなくては。
任務はまだ終わっていない。
悲しむ自分を押し殺し、強い眼差しを向ける。強がるのが今の精一杯だった。月明かりに揺れた瞳は一度伏せられ、絢鷹は雪平に深く頭を下げた。

「ありがとうございました」

再び顔を上げた絢鷹には、迷いはなかった。嘆いている暇はない。この先のことを雪平が教えてくれることはもうないのだ。
自分の力で考え、動かなければならない。
自分らしく隊を導いた雪平のように、自分らしく導いてみせる。
絢鷹にしか成り得ない"隊長"になると、心に誓った。





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