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山茶花の追放により、副隊長だった茶々が一番隊隊長になった。
とは言っても、あまりに急な入れ代わりだ。普通は退職手続きをしたり、隊員に挨拶したり、送別会なんかもある。
だが山茶花は罪人として解任されてしまった。
決してもう会えなくなる訳ではないが、ろくに言葉を交わすことも出来ないままに、去って行ってしまったのだ。
茶々にはまだ、気持ちの整理も覚悟も出来ていなかった。隊長というのは副隊長とは比べものにならない程の技術を求められ、責任も重い。自分がまだまだ未熟であると分かっている茶々は、一番隊をしっかりと率いていける自信がなかった。
小さくため息を吐き、草はらに腰を下ろす。
ここは軍本部から西に少しの場所だ。民家はなく、草はらと木が何本か立っているだけの四角く区切られた平地である。何もないが、草はらに寝転がったり木漏れ日を浴びながら昼寝をしたりする者が多く、疲れを癒す場所として密かに愛されている。
一番大きな木に背を任せ、両足を立てて、木の葉の隙間からぼうっと空を眺めていた。
しばらくして、茶々はほんの僅かな気配に気付き、凭れていた木を見上げる。

「な…絢鷹様…!」

見上げた先には、絢鷹が座っていた。太い枝に、右足を立てている。風に髪を靡かせながら、絢鷹は微笑んで茶々を見下ろした。

「やーっと気ぃ付いたか」

絢鷹の口ぶりからして、茶々が来るよりも前からそこにいたのだろう。

「貴方の気配を察知するのは、至難の業です…」

茶々は困り笑いを浮かべる。忍集団の二番隊の隊長である絢鷹は、気配を消すのが誰よりも上手い。先程気付けたのも、絢鷹がわざと気配を晒してくれたからだろう。
茶々は再び草はらに視線を落とす。他者の気配を感じ取ることも出来ない自分には、やはり隊長など早いと思ったのだ。
肩を落とす茶々を見た絢鷹は、ふわりと音もなく飛び降り、音もなく着地した。

「ちぃちゃん、悩んでるみたいやね」

茶々の隣に腰を下ろし、絢鷹も木に背中を預ける。空を見上げながら問い掛けると、茶々から苦笑が漏れた。

「私など、隊長の器ではありません…まだまだ隊長を追いかける立場です。なのに、これから隊を率いていかなければならない…隊員を導けるかどうか、不安なのです」

茶々が弱音を吐くのは珍しいことだった。山茶花に憧れ、山茶花のようになりたいと願ってきた茶々は、山茶花に似てどこか強がりなのだ。
自分にも他人にも厳しく、真面目な性格。
そんな茶々の本音に、絢鷹は目を閉じた。

「絢鷹様は、隊長になられた時、どんなお気持ちでしたか?不安や戸惑いはなかったのですか?」

そう問われ、絢鷹はゆっくり目を開ける。

「不安はあったよ。むしろ不安しかなかった」

絢鷹は風に揺れる木の葉越しに空を見上げ、昔の自分を思い出した。





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