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「…影狼丸と俺の関係も確かに気になるところではあるが…」

サイはそれ以上に、影狼丸と覇王の言葉が引っ掛かっていた。

「俺は人間だ…それは、間違いないはず」

手の平を見つめ、ぎゅっと握る。
覇王も影狼丸も何を感じ、ああ言ったのだろう。

「妖の血が混じってたら、あたしでも気付くと思う。皆にだってきっと分かるよ。でも…」

サイから妖の気は感じない。
祟り眼の呪いを受けたことを除けば、普通の人間と同じだった。

「中つ国で銀髪の人間は生まれない…これは、事実だと思うか?」

「…わからない。でも、影狼丸が嘘を言ってる感じでもなかった」

人の心の動きに敏感なアカネは、たいていの嘘は見通せる。影狼丸が口から出まかせで言ったとも思えなかった。サイも、そう思う。

「中つ国を旅しながら、一度でも銀髪の人間に出会ったことがあるかと言えば、ない」

「確かにね…妖なら銀髪は犬神一族含め沢山いたけど…人間は会ったことないよ」

「……俺は、自分がどこでどうやって生まれたのか知らない。両親も記憶にはない」

サイは生まれて直ぐに拾われたのだ。育ての親である巴と晋介はそう言っていた。
だが、今思えばそれ以外のことを教えてくれることはなかったのだ。両親はどんな人だったか、どこの村出身なのか…問い掛けても全て、濁されていたように思う。

「俺の生まれを知っていたのかもしれない…巴さんと師匠は」

「え?」

「けど、教えてはくれなかったんだ。子供の頃、興味本位で聞いたことがあったが…今思えば上手くはぐらかされていた」

と言うことは、何か口にし難い理由があるのだろう。
赤子がぽつんと出現する訳がない。必ず両親がいたはずだ。
だが実の両親については、口に出来ないような何かがあった…それを巴や晋介は見ていた…。そう考えるのが一番納得が行った。

「無理にでも聞き出せれば良かったんだがな…」

なんせ子供の頃だ。聞いてはいけなかったんだと、それで解決していた。

「今となっては、確認も出来ない」

巴も晋介も、他界している。
真実はわからないままだ。

「…何も分からないね…」

影狼丸との関係、サイの生まれ。
どちらも謎に包まれたままだ。
自分のことなのに分からない。その事実はサイの心に鉛を落とした。何も知らずに生きているのだ。

「…影狼丸は、全て知っているみたいだったな」

「あの口ぶりからすれば、そうなんだと思う」

アカネも同じ意見だった。
影狼丸の口を割らせれば、真相は分かる。
だが、容易に教えてはくれなさそうだ。あの渋り方…影狼丸自身、掘り返したくない話題のように思えた。

「何にせよ、俺はまたあいつに会う必要があるな」

庭を見つめるサイは、そのずっと先の、陰に思いを馳せているようだった。




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