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影狼丸とサイが地を蹴ったのは同時だった。乾いた砂埃が僅かに巻き上がり、刀がぶつかり合う。
その音が響く度…刀を交える度に、サイは自分の心が波立つような、胸騒ぎに似た感覚に陥った。
影狼丸に会ったのは間違いなく初めてだ。だが、心のどこかでこの黄泉を知っているのではないかと思ってしまう。
影狼丸も刀専門なのだろう、サイと対等に渡り合っている。
互いに一歩も譲らず、息着く間もなく斬り合う。
アカネは軍の怪我人を庇いながら、二人をじっと見守った。
「あれ…?」
サイと影狼丸を交互に見つめ、アカネは目を細める。何度も何度も二人を見比べ、やがて気付いた。
「…似てる…」
小さな呟きは誰にも届かなかったが、サイと影狼丸、二人がよく似ているのだ。
いや、似ているなんてものではない。同一人物なのではないかと疑ってしまうくらい、似た顔立ちをしていた。
並んで立っていれば、双子か何かかと思ってしまいそうだ。
キィン、と高い音が鳴り響き、二人は間合いをとる。
「影狼丸…黄泉の狙いはなんなんだ…!」
息を乱しながら問うサイを、同じく肩で呼吸しながら影狼丸は睨む。
「教えてどうする。叶えてくれるとでも言うのか」
「叶えられる願いなら、聞いてやる。だから…」
「嘘を吐くな…!俺達の言葉など聴き入れようともしたことがない者が、叶えられるはずがない」
影狼丸はアカネや軍人をきつく睨む。憎悪とまではいかないが、明らかに嫌悪が込められていた。
サイは影狼丸の視線を辿り、再び戻す。
「神に対する願いなのか」
「教える必要はないと言ったはずだ…それよりも何故、人間や妖が邪魔をする!」
リンカやいろはは、神以外に人間や妖に妨害された。邪魔をする存在が増えることは、黄泉にとっては面倒だ。
「神と黄泉の問題だ。人間が割って入るな…!」
静かに睨む影狼丸の目には、敵意こそあれど殺意はない。幾度も死線を潜ってきたサイにはその違いは分かる。
「影狼丸…お前は、いや、お前達は、神以外を殺すつもりはないのか」
「そうだ、中つ国の者には何ら用はない。わざわざ殺す必要もない…だがお前達は我ら黄泉の邪魔をする…なぜだ」
「高天原の神々には多大な恩がある。その恩に、報いているだけだ」
影狼丸は眉を寄せ、サイを睨む。
刀を構えたまま退く気配のないサイを見て、刀を持つ手に力が篭る。
「何故お前なんだ……俺は…俺はお前には会いたくなかったのに…!」
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