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アカネがいるからだろうか、とサイが思っていると、目的地に立つ影が目に入った。
神と黄泉が争っているようだ。
黄泉が手に持つ刃で、倒れ込む神に止めを刺そうとしている。
サイとアカネは同時に走り出し、サイは腰の月夜叉を抜く。
「やめろ!」
黄泉が振り下ろした刀を、サイは神との間に入るように受け止める。
刀と刀がぶつかり合った甲高い音が辺りに響く。
アカネは即座に倒れた神に駆け寄り、サイと黄泉から引き離した。
刀越しに黄泉を睨み、サイは全身の毛が逆立つような言い知れぬ感覚を覚えた。人の姿をとった黄泉を見たのは初めてだ。
前髪に隠された顔は俯きがちで見えないが、サイはアカネではなくこの黄泉がいたから、辺りに他の黄泉が現れなかったのだと悟る。
それくらい、目の前の黄泉から強者独特の気を感じた。
「刀を引け…!」
力を緩めないままサイが言う。
「…神でない者が何故、邪魔を…」
黄泉はそう言いながら、初めて顔を上げた。
長い黒髪、影の落ちた赤い瞳。どこか儚く、物悲しい雰囲気の黄泉は、サイと目が合った瞬間刀を弾き飛び退いた。
アカネは生き残った軍の隊員と離れた場所から見守る。
刀を黄泉に向け直すサイに対し、黄泉は手にする刀の存在を忘れたかのように腕を垂らし、サイを凝視している。
戸惑い、驚き、そして恐れを抱いているかのように目を見開き、瞳を揺らす。
その口から飛び出した言葉は、その場にいた誰の予想にも当てはまらないものだった。
「サイ…!お前が何故高天原(ここ)に…!」
サイは眉を側め、目を細める。
「お前に会ったことはないが…何故俺の名を知っている」
サイの言葉を聞いた黄泉は、その瞳を僅かに揺らし、どこか寂し気に一度目を伏せる。
「…そうだな、お前が俺を覚えていなくとも無理はない」
黄泉は再び瞼を開け、サイに刀を向ける。先程より平静を取り戻したようだ。
「俺の名は、影狼丸。今…黄泉を統括するのは俺だ」
「なに…?!」
その一言に、サイとアカネの表情が険しくなる。
黄泉を統括するということはつまり、この影狼丸こそが黄泉の首領だ。
「あんたが愁麗を連れ去ったの…?!」
口を開いたアカネに視線を移し、影狼丸は目を細める。
「お目にかかれ光栄だ、太陽姫。愁麗のことは、貴女の言う通りだ」
それだけ言うと、影狼丸はサイに視線を戻す。
「…お前に会う事になるとは、思わなかった」
「影狼丸…何故俺を知っている」
影狼丸は歯を噛み締め、サイを睨む。
「教える必要はない。神の味方をするならば、斬るだけだ」
刀を握る手に力を込めた影狼丸と向き合い、サイも腰を落とし、月夜叉を構えた。
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