3


今の高天原は、アカネにとって好きとは言い難い世界だった。
アカネは、サイを始めとした差別に苦しむ仲間を知っている。その苦しみを共有しているアカネにとっては、神々の黄泉への拒絶は納得出来ていないようだ。

「黄泉だって、思いを遺したから存在する。ってことは、ちゃんと心を持ってるんだよね」

心があれば通じ合えないことはない。
元々は中つ国で生きていた妖なのだ、分かり合えないことはない。

「そうか…でも確かに、そういう見方もあるのかもな」

両方の世界を知るアカネだからこその意見に、サイは納得した。アカネの言うことは最もかもしれない。

「あたしなりに色々思うことがあって…陰に行ってみたいと思ったの」

文献や、真っ向から悪と見なす神々の情報では、黄泉の本当の姿が見えなかった。
アカネは自分の目で確かめたかったのだ。

「サイと一緒に行けたのは運が良かったよ」

軍の護衛を付けて行くことを考えていたアカネにとって、たまたまでもサイと赴けたのは嬉しいことだった。

「サイと二人で出掛けるの久しぶりだしね!」

「ああ、そうだな」

無邪気な笑顔を向けるアカネの頭を、サイは優しくくしゃりと撫でた。

やがて見えてきた朱雀門を通り、サイは二度目、アカネは初めて陰に踏み込む。サイには予め、討伐予定地を知らされている。ほぼ真っ直ぐ進めば良かったことを思い出し、歩を進めた。
荒れ果てた大地に、生のない空気。
アカネは眉を側め、胸元で両手を握りどこか悲しげな表情で歩く。

「本当に何もない…こんなに寂しい場所だったなんて…」

生命を司る太陽神であるアカネにとって、陰の死気はやはり負担なのだろうか。サイは自分よりゆっくりな歩調で歩くアカネを心配気に覗く。

「大丈夫か?死気に当てられる者もいると、絢が言っていた。辛いなら無理するな」

ハッと我に返ったようにサイを見つめ、アカネはぶんぶんと首を振った。

「大丈夫、ただ思ってたよりも悲しい場所だったから、驚いただけ」

体調がおかしくなったりはしていないと話すと、サイはほっと目許を緩め、再び歩き出す。
前に絢鷹と来た時は、生き物の気配を感じた黄泉が群がってきた。
だが今日は何故か、歩き続けてもそれらしき影は見当たらない。





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