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市街地は人で賑わっている。様々な店が立ち並び、路上で商いをする者もいれば、買い物客もいる。
所謂村や集落にある光景だが、中つ国ではこれ程明るくきらびやかな光景は見ることがない。
この町の様子だけで、高天原が潤っていることが伺える。
素朴で未だ発展途上の中つ国とは大きな違いだ。中つ国の者は、その殆どが明日を生きるに苦労している。いつ妖に襲われるかも分からなければ、病や呪いにかかるかも分からない。
この高天原に来た当初は、全てがサイ達にとって驚きの連続だった。便利な物や道具は勿論だったが、何より人々の顔に余裕がある。人生を楽しむゆとりを持っている。

「高天原のように城壁に守られた世界ならば、人間も安心して生きられるんだろうな」

平和と安息。
それだけでこんなにも人々の笑顔に差がある。
町の様子を眺めながら朱雀門へ歩くサイをアカネは見上げる。

「でもね、サイ」

「ん?」

声をかけられ、サイはアカネへと視線を落とした。

「ここの人達は、何も知らないの。軍の人や母さん達以外は、陰がどんなところか…何も知らないんだ」

アカネは言いながら、人々を見渡す。

「"知らない"って、幸せなことであると同時に、悲しいことだと思う」

高天原の一般人は、軍事にでも携わらない限り、陰に赴くこともなければ黄泉に襲われることもない。
黄泉という身近な存在すら、夢うつつのように思っている者もいる。

「壁のすぐ向こうには荒野があって、死者と言っても黄泉は生き物のように存在する。こんなに近くにいるのに、心を閉ざし合うのって、あたしはなんか悲しい」

高天原は確かに繁栄はしているが、共存出来てはいない。
そう言うアカネに、サイは僅かに目を開く。

「…アカネ、お前…」

アカネは、サイのよく知るアカネとはもう違うようだ。無邪気で大胆なところは変わっていないが、心構えが随分と大人になっている。
三年の間、アカネはアカネなりに見て、学び、色々考えたのだろう。

「だからあたしはね、多少の小競り合いはあっても、妖と人間がちゃんと互いの存在を認め合って共存してる中つ国の方が、ある意味恵まれてると思うよ」

高天原の理は、黄泉と神を完全に隔てている。
共存どころか、互いの言葉に耳を貸すこともしていない。そんな仕組みの世界なのだと、ここに来てからアカネは身を持って知った。
高天原の神々にとっては、何万年も前からそれが当たり前である為何の違和感もないのだろう。
だが17年の人生を中つ国で過ごしたアカネには、違う見え方だったのだ。





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