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山茶花が防衛軍を追放処分になったことは、風の噂で高天原中に知れ渡った。
直接本人から聞いた訳ではないが、サイの耳にもその話は入ってきている。軍から主要人物が抜けたことで、軍内部、特に一番隊はごちゃごちゃしているらしい。
茶々が後を率いることになるが、慌ただしい入れ代わりに隊員の気持ちが追い付いていないようだった。
そんな様子を見た千代菊は、一番隊に少しの休暇…という名の団結期間を与えた。
お陰で足りない分の戦力はサイ達援軍に期待される事になり、この日サイは再び陰に赴くことになっていた。

「ね、サイ。今回はあたしも一緒に行っていい?」

月夜叉を手入れし、出掛ける準備を整えたサイにアカネはそう言った。
アカネとサイは同室である為朝晩顔は合わせているが、如何せんアカネは太陽姫の務めに忙しく、日中共にいれたことが殆どない。
そんなアカネから同行を願われ、サイは目を丸くする。

「姫の責務はいいのか?」

アカネは笑みを浮かべ、頷く。

「今日は用事がないの。だからたまには一緒にと思って」

サイはその申し出を快く受けようと笑みを作ったが、言葉を発する直前に不安が過ぎる。

「陰が危険なのは分かってるな?」

無数の黄泉が蔓延る死の大地に、生命の象徴である太陽姫が入っても害はないのだろうか。

「勿論分かってるよ、入ったことはないけど、知識だけは持ってるから」

そもそも姫の立場である者が陰に入るなど有り得ない。
姫を護る為に軍がいるというのに、姫自らが陰に赴くなど本末転倒だ。だがアカネは、そんな無理も押し通してきたと自信に満ちた笑顔を浮かべる。

「母さんに許可を貰ってるから、大丈夫」

高天原の主神である天照の許可があれば、誰も無理に引き止めは出来ない。軍でも口出しは出来ないだろう。

「…わかった。絶対に俺から離れるなよ」

そこまで来たいのなら止めはしないと、サイは頷いた。
アカネはすぐさま立ち上がり、この国ではドレスと呼ばれている着物の裾を取り外した。どうやら付け外しが出来るらしく、長かったドレスは太股辺りの短さになった。
動き易そうだが、気になることがある。

「…短くないか?」

動き回れば捲れるぞ、と心配するサイを見てアカネは笑う。

「だーいじょうぶ!これ袴みたいになってるから!」

ひらりと回って見せる。確かに見た目にはわかりにくいが、捲れる心配はなさそうだ。

「ならいい。行こうか」

アカネは頷き、先を歩いていくサイの背を追った。




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