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「雫鬼さんは、人間に戻りたいですか?」

浄化が進んでいることを、雫鬼自身はどう思っているのだろうと姫宮は問う。

「…人に戻れること自体は嬉しい。だが鬼の力を失うということは、今まで俺が使ってきた戦う力を失うことだ」

鬼の力は雫鬼の戦いにおいて必須の力だった。今までその力を使って戦っていた。
鬼でなくなる事は、戦う力を失ってしまうということ。
守るものの為に戦うことが出来なくなる。そう思えば、雫鬼にとって喜ばしいことばかりではなかった。

「姫宮、お前が…犬神の力を失うとしたらどう思う」

「…それは…」

「それと同じだ」

姫宮は成る程、と頷く。
姫宮も犬神の力を失うと困ることが多い。普通の人間には戻れるが、その代償も大きく感じる。

「でしたら、私は側にいない方が良いですか?」

姫宮が近くにいることで浄化の力は強まる。それだけ、鬼の気が早く消えていくことになる。
雫鬼がそれを望まないのなら、離れていた方が良いのかもしれないと姫宮は思った。

「その必要はない。失われるなら、代わりの力を身につければいいだけの事だ。お前が気にすることではない」

人間でも戦えないことはない。
武器の扱いを覚え直せばいいだけだ。そういう雫鬼に姫宮はくすくす笑う。

「…?なんだ」

「良かった、自分で言っておきながら、離れろと言われたらどうしようかと思いました」

雫鬼は驚き目を見開く。
それではまるで、側にいたいと言っているようなものだ。
姫宮が何故そう思うのか分からず、少し狼狽える。
そんな心境を察したのか、姫宮はまた笑う。

「私、雫鬼さんとこうしてお話するの、好きなんです」

「俺と話して楽しいか…?」

楽しい話題を振れているとは思えない。物静かな雫鬼は聞きに回ることの方が多い。
何が楽しいのか疑問に思った。

「楽しいですよ、とても。…それに…落ち着くんです」

「……落ち着く…か」

考えれば雫鬼も今、心が穏やかで落ち着いている。
姫宮もこういう感覚なのだろうか。

「俺も、姫宮と話すと落ち着く気がする」

そういうと、姫宮はにこっと笑って首を傾けた。

「それは良かったです。…あ、でしたらこれからお茶でもご一緒しませんか?」

高天原の有名な甘味処に行ってみたかったんです、と姫宮は言う。
今日は穏やかであたたかな日だ。黄泉との争いも起きていない。
気晴らしに二人で出かけるのも悪くないと、雫鬼は頷く。

自分の中の鬼がまた少し消えた気がしたが、嬉しそうな姫宮の笑顔を見れば、それも気にならなかった。





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