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「前言撤回です。変わったというより、今の貴方が、元々の雫鬼さんだったんでしょうね」

優しさを持たない者が、他者の為に悲しみ、怒ることはない。

「昔の俺を知らないくせに、よく言う」

困り笑いを浮かべ、姫宮の洞察力には感服だと思う。姫宮の言う通り、ここ最近は昔のような心持ちだ。人間であったあの頃のような、穏やかな心地で生きているように思える。
これもやはり、身に起きている変化の影響だろうか。

「雫鬼さん」

ぼんやり考えていた雫鬼は、姫宮の短くも真剣な呼び声に意識を戻す。
視線を合わせた姫宮は声色と同じく、真っすぐな目をしていた。

「…鬼の力が、弱まっているのではありませんか?」

見通したようなその言葉に、僅かに目を開く。
雫鬼は畳に視線を落とし、沈黙する。鳥のさえずりだけが、しばらく辺りに響いた。

「気付いていたのか…何故」

「憶測に過ぎませんでした…でも、そうおっしゃるという事は、事実なのですね」

「ああ。お前の言う通り、ここ数年で俺の鬼の部分が弱まっている」

見た目には分からない変化だ。
今も鬼には変異出来るし、その証でもある角も生える。だが鬼の力…氷の力は年々弱まってきていた。
それはつまり、雫鬼の中の鬼が消えていっているのだという事。

「人間だった頃に心境や体の感覚が近付いている気がする」

その理由に、心当たりがないわけではなかった。異変を感じ始めたのは、姫宮と共に犬神山に入ってからだ。

「貴方の中の鬼の気が、少しずつ浄化されているのかもしれません」

姫宮も大方の原因は分かっていた。

「犬神山はとても清らかな気が流れる霊山です。そこに住まううちに、鬼の気が洗われているのでしょう」

犬神山には犬神しか住まない。
犬神は妖ではあるが、どちらかと言えば炎馬のように神聖な聖獣のようなもの。
犬神山の強い霊気に当てられないのもその為だ。

「それもあるだろうな。だがお前と共にいる事で、それはより拍車が掛かっているように思える」

姫宮はその言葉に目を丸くする。

「私といるから、ですか?」

「お前から感じる浄化の気は凄まじい。間違いなく影響は受けていると思う」




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