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「阿国は、お前さんを守る為に生まれたんだよ」
出雲の言葉に、山茶花の瞳が僅かに揺れる。泣きそうな微笑みを浮かべ、頷いた。
「ほんとに…、ありがとう」
阿国である時ならば、山茶花も幾らか心を開いた。幾重にも鍵を掛けられた少女の心は、時と共に次第に開け放たれていき、いつの間にか、本当の親子のようになるまでに至る。
そして、出雲のままでも受け入れられるようになったのだ。出雲だけは、山茶花の安心出来る存在となった。
「当時、あんたは軍の隊長だったな」
「そう、四番隊隊長を務めていたよ…懐かしい話だね」
出雲は、かつて防衛軍に所属し、隊長を務めていた。つまり燕志の先輩にあたる。
「あんたの姿を見て、私も強くなりたいと思った。このままじゃだめだと思ったんだ」
いつまでも守られてはいられない。強くなり、自立し、今まで自分を虐げてきた男達を見返してやれるようになりたいと、山茶花は思った。
「お前さんは元々才ある子だった。初対面の時にそれは見えていたよ」
剣に全てを捧げ、血の滲むような努力を重ねてようやく、一番隊隊長になったのだ。同時期に、出雲は四番隊隊長を辞任し、隠居生活を始めて今に到る。
剣に生きるようになった山茶花にとって、軍という存在は何より大切だった。そこで出会った仲間達は掛け替えのないものになった。大好きだった。
「私の全てだったよ」
山茶花は膝の上で拳を握る。
「それを無くした今、私は…この先どうやって生きればいい?わからないんだ…」
出雲はぎゅっと唇を噛む山茶花にため息交じりの笑みを漏らし、煙管を咥える。
「お前さんは本当に不器用だね」
「…それ、昨日焔伽にも言われた」
同じことを言われ、山茶花は苦笑する。出雲は煙管を山茶花に向け微笑む。煙がゆらゆらと風に流された。
「お前さんは風。風は、自由の象徴だろうに」
誰が風を鎖で縛る事が出来よう。誰が風を閉じ込める事が出来よう。
風は何者にも捕まらず、自由に天を駆け巡ることが出来る。
「自由に生きれば良い。お前さんのしたいように、思うままに歩けばいい」
軍を追放されたということは、軍による様々な制約から解放されたということでもある。
毎日任務に出向く必要もなく、命令に従う必要も、もうない。
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