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「口を開くなり、あんた何言ったか覚えてるか?」

「俺と共に来ないか、だったね」

寸の間二人は笑いあう。

「初対面の男に、来ないかなんて言われて私がどんだけ戸惑ったか」

「許しておくれ、気付いたら口がそう動いてたんだよ」

出雲の言葉に山茶花はまた笑う。眉を側め、困り笑いを浮かべながら出雲を見つめる。

「けど、あれが今の私の始まりだったんだ…感謝してる」

戸惑う山茶花を、半ば強引に連れ出していた。出雲は自分の屋敷に山茶花を住まわせることにし、全ての面倒を見ていた。

「最初は何が目的なのか、あんたの心が分からなくて混乱してた。あんたが男だから、余計に」

男性に対し恐怖心を持っている山茶花は、容易に心を開かなかった。出雲は山茶花を怖がらせるようなことはしていないが、山茶花にはそれは関係ない。異性と共にいるということが問題だった。

「どう接すれば良いのか、俺なりに考えたよ。そして、男でダメなら女で接しようと思った」

役者の心得があった出雲は、女者の着物を纏い、髪を結い上げ、所作、言葉遣い全てを女性とした。女性を演じることにしたのだ。その時に阿国は生まれた。




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