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山茶花は、高天原の貧民街で生まれた。高天原は華やかな印象だが、そんな華やかな地程、影も大きい。
山茶花の生まれた地域は、高天原でも最も治安の悪い場所だった。
貧困や飢え、病も多く、住民同士の揉め事など日常茶飯事。
薄汚れた着物を纏い、手足は泥まみれ…そんな生活が当たり前の場所だ。
住民が持っている物は、神としての使命くらいだった。高天原で生まれた者は必ず何かしら司るものを持って生まれ、その使命はついて回る。それが山茶花は風、出雲は大地だったのだ。

「私が軍に身を捧げる事が出来たのは、あんたのお陰だよ」

貧民街は、早くに身寄りを亡くした山茶花が生きるには、あまりに過酷な世界だった。
暴行を振るわれ、良いように弄ばれ、虐げられる…身寄りない娘にはよくある話だった。痣や傷は絶えず、逃げたくとも抗えない。
その経験は山茶花に強い恐怖とトラウマを植え付けた。異性を怖がるようになった理由の原点だ。

出雲が山茶花に出会ったのは、山茶花が十五、六歳の時だった。出雲も貧民街出身であり、仕事柄そこで生活こそしてはいなかったが、ある日ふと生まれた地を訪れたのだ。
そこで、山茶花を見つけた。
着物から覗く痛々しい傷痕の数々。顔にも痣を作り、髪もぐしゃぐしゃで、とても見ていられない姿の少女だった。
何をするでもなく静かに空を見上げていた山茶花から、出雲はなぜか目を逸らす事が出来なかった。

「とても、美しい子だと思ったよ」

出雲は湯飲みを見つめたまま目を細める。
空を見上げる少女の瞳があまりに美しくて、透き通っていて。
気付いたら出雲は、山茶花に声をかけていた。

「声を掛けられた時、初めは困惑した。またか、とも思った」

男に声を掛けられる理由なんて、今までそれしかなかった。

「だから怖かったし、警戒したのを覚えてる」

山茶花が苦笑すると、出雲も目を伏せ苦笑する。

「でも、それまでの奴らとは明らかな違いがあった。どう見ても、あんたは貧民街の者じゃないって」

山茶花に声を掛けた出雲は、貧民街では考えられないような綺麗な着物を身に着けていた。髪を結う紐も、草履も全て、山茶花達からは手の届かないものばかりだった。貧民街の中、一際目を引く格好の男に話し掛けられ、山茶花はより一層戸惑ったという。




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