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一番隊隊長という立場を解任した山茶花は、出雲の部屋を訪れていた。
無駄な物がない簡素な部屋は、相変わらず畳の良い香りがする。
まだ十代半ばだった頃は、山茶花もここで暮らしていたのだ。部屋を直接訪ねるのは、思えば久しぶりで。山茶花は懐かしさにふと表情を緩める。
しばらく部屋で待つと、静かな足音と共に出雲が入ってくる。女としての彼である阿国の格好ではない。出雲という、気怠げで掴みにくい怪しげな雰囲気が特徴の格好だった。
こちらの姿が彼の元々の姿なのだが、山茶花と接する時は女である事が多い為、ちょっとした違和感がむず痒く感じた。
「待たせてすまないね」
二人分の茶と菓子を持ってきた出雲は、山茶花と自分の前にそれを置く。
「私こそ急にすまない。少し話したくなってな」
山茶花のその言葉に、出雲はなにも言わず穏やかに微笑む。
山茶花にとって、この微笑みは心底安心出来るものだった。自然と山茶花にも笑みが浮かぶ。
目の前に置かれた茶を一口飲み、静かに語り始めた。
「…解任したよ、隊長を。軍も追放処分になった」
聞きながら、出雲も湯飲みに口を付ける。少し苦めの茶を飲み込み、胡座の上で湯飲みを持ったまま山茶花に視線を合わせる。
「黄泉の一件で、だね。俺も謹慎を命じられたよ」
山茶花もだが、出雲も同じ。
黄泉に憑かれ、仲間を傷付けた。出雲は身内を殺めるには至っていないが、それでも問題視はされる。一種の罪を犯したには変わりない。
「昨日、そのことで散々泣いた」
「お前さんにとって、軍という存在はそれだけ大きかったんだろうよ」
山茶花が涙を見せる事は滅多にない。苦境も根性で乗り越える芯の強さを持っている。
その山茶花が涙したということはつまり、そういうことだ。
「私はずっと、剣に生きてきたからな…」
山茶花も出雲も、過去を振り返るように、目線はどこか交わらないところを見ていた。
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