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その呟きで、会議室は寸の間沈黙する。
黄泉とは元々倒すべき存在である。それが当たり前なのだ。
罪ある黄泉を殺し、罪無き黄泉は殺さない…という訳ではない。
存在が罪とされる黄泉には、神々の定めた罪は当て嵌められない。

「元々殺す対象に責任を被せて殺しても、何も変わらないってことは、まぁ事実だな…」

燕志はため息を吐く。
山茶花に責任を追求しているのは、その大半が遺族の者だ。彼らは山茶花の隊長としての能力に追求している。
黄泉に憑かれていたから云々…と説明したところで、納得は出来ないだろう。
絢鷹と茶々は眉を側め押し黙る。

「ですが…」

「もういい、茶々」

静かに掛けられた言葉に、茶々の瞳が揺れる。半ば縋るような目で、言葉を発した山茶花を見つめた。
認めないでほしい、辞めないでほしい。そんな思いを込めて。
だがそれは、真っ直ぐ千代菊を見上げた山茶花には届いてはいない。

「総隊長、私…山茶花は、今この瞬間より一番隊隊長の任を解く」

「理解したようで何よりだ」

追放と言われれば大それた事のようだが、右京の言う通り、普通なら追放どころでは済まない。それだけの命を奪った。
山茶花は目覚めた時から、こうなると腹を括っていた。

「出雲にも謹慎を言い渡した。お前達二人にはしばらく自粛してもらう」

「…分かった」

納得した様子の山茶花に頷き、千代菊は立ち上がる。

「会議はここまでだ。解散し任務に就け」

そう言い残し、総隊長席の真後ろの扉に消えていく。
それを見送った山茶花は、踵を返し会議室を出て行った。
残された隊長、副隊長達は何とも言えない複雑な表情で、誰も何も言わなかった。

扉を開け出てきた山茶花に、外で待っていた焔伽は壁から背を離す。
その直後に再び扉が開き、茶々が飛び出してきた。

「隊長!!」

山茶花の背に向かい叫ぶ。

「私はもう隊長じゃねぇよ、茶々」

微笑みながら振り返った山茶花に、眉を側めながら首を振る。

「隊長は…隊長だけです、貴女しかいません!私は、貴女について行きたいと…!」

縋るように駆け寄り、山茶花の手を握る。その手は小刻みに震えていた。

「私は、お前を副隊長に持てて誇りに思うよ。…これからは茶々、お前が隊を引っ張っていけ」

ずっと山茶花だけを見てきた。ずっと追いかけてきた。女の身でありながら、強く凛々しく隊を導く山茶花のようになりたくて、必死で努力もしてきた。
追っても追っても憧れの存在のままだった山茶花の引き際が、こんな形になるなんて。
俯いたままの茶々から涙が零れ、それは握り合う互いの手の上にぽたぽたと落ちる。

「私では…私では無理です…」

俯いたまま肩を震わせる茶々に、山茶花は堪えるように唇を噛み目を逸らす。そして茶々の背に腕を回し、強く抱きしめた。

「やれるさ、お前なら。私よりずっと、隊を導ける。何年も見てきたんだ…お前の能力は誰よりも分かってるつもりだ」

嗚咽を漏らしながらしがみつく茶々をあやすように、山茶花は微笑みながら頭を撫でる。
涙が零れないように、見えないように上を向きながら。




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