4


浚ってきてすぐの時も、愁麗を安心させるような砂文字を紡いだり、いろはの悪ふざけから遠ざけたりしていた。

「私を閉じ込めて下さい、影狼丸」

「なに…?」

本人からの理解し難い言葉に、影狼丸は眉間にしわを寄せた。
愁麗は、強い意思の篭った目で影狼丸を見つめる。

「私は知らなければならないんです、貴方がた黄泉の心を、思いを…それまでは、逃げも隠れもしません」

黙ったまま愁麗を見つめる。絡んだ視線には、互いに敵意はない。

「牢の中では、こうして貴方の心に触れることも出来ませんから…」

黄泉を知りたい、理解したい。
そんな言葉を掛けてきた神はいただろうか。
影狼丸の知る限りでは、そんな者はいなかった。
己の手に重なる小さな手の温もりに嘘は感じられない。
愁麗は、逃げないのだろう。

「…愁麗」

影狼丸は柵に触れ、ふっと檻を消す。影となって消えた檻はもう愁麗を囲ってはいない。
重ねられた手を握り、立ち上がる。引き上げるように優しく手を引き、愁麗を立たせた。

「見ているがいい。…俺達がなにをしたいのか…なにを望むのか」

「…理の姫として、見届けます、必ず」

自ら黄泉の本拠地に閉じ込もることを選んだ愁麗の瞳には、強い責任が浮かんでいる。
影狼丸の側で、影狼丸が成そうとしていること、黄泉達の本当の望みを知りたい。

「貴方は、私に"やってもらいたい事"があると言いましたね」

「そうだ」

そのために愁麗はここへ連れて来られた。
愁麗にしか出来ないからこそ、浚われたのだろう。黄泉達の望みは、少なからず愁麗により現実に近づくことが出来るということだ。

「いつか…理解してみせます」

自信あり気に微笑んだ愁麗に、影狼丸は困り笑いとも苦笑いともとれる複雑な笑みを口許に浮かべた。

「俺の側を離れるなよ」

「はい」

黄泉と神。
相反する二つの種族が取り合った手は、互いにとても暖かいと感じられた。




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