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影狼丸は牢獄の先の部屋に入り、蝋燭に灯を点した。
真っ暗だった室内が幾分か明るくなり、部屋の中央に寝台が浮かび上がる。
石で作られた冷たく固い寝台の周りの床には、術式による陣が描かれていた。
影狼丸はリンカを寝台に寝かせ、陣の外に出る。
二本指で術式を切りながら、言霊を紡いでいく。その言霊と印に、床に描かれた陣は反応し光り始める。影狼丸は言霊を続け、光はやがて部屋全体を明るく照らすほどになった。
そして、その光は凝縮されるように寝台に集まり、リンカの胸の上でひとつの球体になった。
影狼丸がゆっくりと印を結ぶ手を下ろすと、光も落ちるようにリンカの体に吸い込まれていく。
じんわりと染み込むようにリンカに溶けた光は、一度だけ淡く輝き、収まる。

光が収まったのと同時に、リンカの体に着いていた傷のすべてが消えていた。静かに呼吸をしているリンカの頭部に触れ、強く打ったヶ所の治癒も完了していることを確認する。

「早くに助けられず、すまなかったな」

眠るリンカに眉を側めながら謝り、影狼丸は部屋を出る。
数刻もすれば、意識を取り戻すだろう。
再び地下牢を通る影狼丸の目に、奇妙な光景が写る。

「何をしている…?」

牢の中の愁麗は、正座し、指を絡め祈るように胸の前で握り、目を閉じていた。

「神々が早く助けに来ることでも祈っているのか」

そう投げかけると、愁麗は伏せていた目を静かに開けた。祈る手はそのままに、視線は影狼丸の足元に向けられている。

「神と黄泉…戦いにより亡くなった者達の冥福を、祈っていました」

その言葉は、影狼丸にとって思いもよらないものだった。
死んだ神の冥福を祈る…これだけならまだ納得出来る。愁麗は神なのだから。同胞の死を悼んでも可笑しくはない。
だが、愁麗は「神と黄泉」と言った。
敵である黄泉の冥福までも、祈るというのか。

「黄泉の死も悼むのか」

影狼丸とは視線を合わせないまま、愁麗は頷いた。

「黄泉も魂ある存在。生きているのと変わりません…そこに神との差は、ありません」



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