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影熊との戦いで負傷したリンカを抱え、いろはは黄泉達の住まう本拠地に戻った。
横抱きにされているリンカは未だ意識を失っており、腕は力無くだらりと垂れている。
影狼丸がいるであろう広間の扉を蹴り開け、いろははカツカツと石畳を鳴らしながら奥へ進む。
椅子に座り、机に肘を着いていた影狼丸は、いろはが抱き抱えるリンカを目にして僅かに目を細める。

「ギリギリ間に合ったぜぇ?ちっと遅れたがなァ」

いろはは影狼丸に近づき、影狼丸は椅子から立ちリンカを受け取る。

「リンカ…」

腕の中で重力に任せるままのリンカの首筋に手を当てる。脈は落ち着いているようだ。トクン、トクンと命を刻む音を指先に感じる。
頭や腕…あちこちから出血してはいるが、どれも軽傷だ。気を失った原因は頭を打ったからなのだろうと影狼丸は判断する。

じっと眺めているいろはに頷き、影狼丸はリンカを抱え地下への階段を下りていく。
暗い階段の先の扉を開ければ、そこは牢獄だ。
左右に檻のある部屋の真ん中の砂道を歩き、更に奥へ向かう。
二つ目の檻の前を通った時、檻の中から声が掛かった。

「…彼女、どうしたんですか…?」

この部屋にただ一人閉じ込めている女、愁麗だ。
影狼丸の抱えるリンカを見つめ、眉を寄せている。
神である彼女が、まさかリンカの心配でもしているのだろうか。

「戦いにより負傷した」

それだけ言い、影狼丸は再び歩を進めようとする。愁麗は柵に近づき、カシャンと音を立てて柵を握った。

「待って下さい、戦いというのは…」

それまで一度も愁麗を見なかった影狼丸は、顔は前を向けたままに視線だけを愁麗へと落とす。その横顔から目を逸らすことなく、愁麗はじっと影狼丸を見つめた。

「無論神との戦いだ」

「…誰か…命を落としたのですか…」

「雑魚はそれなりに死んだようだな」

瞳を揺らす愁麗に止めを刺すように、影狼丸は言い捨てる。
目を見開き、悲痛に顔をしかめる愁麗を置いて、影狼丸は元々行こうとしていた部屋へと向かう。
その背に愁麗は何も言わなかった。

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