視界に入った時は、岩なのだと思った。だが近付くにつれ、それが死体の山だということに気づく。
誰ひとり生きている者のいないただの肉塊の上に、少女が一人座っていた。梅鼠色の髪を左右で輪のように束ねている翡翠色の瞳の少女。血塗れの死体に乗っているというのに、まるで野原にでも座っているかのように涼しげな表情だ。
影熊や隊員を目にしても、その表情は揺らぐことすらなかった。

「き、貴様黄泉か…!」

隊員達は死体の山ごと少女を取り囲み、武器を構える。影熊は一歩後ろから黙ってその様子を観察していたが、少女がゆっくり瞬きをしたその瞬間、ぞくりとしたものが背筋を駆けた。

まずい。
影熊の本能がそう感じた時、少女は三日月型の武器を手に取った。

「全員そこから離れろ!!」

影熊の叫び声と、隊員達の悲鳴が重なる。少女が振るった武器は、まるでブーメランのように隊員達の輪に沿って飛んだのだ。三日月型の刃は、全ての面が刃になっている。
動く隙も与えないままに刃は隊員達の列を駆け抜け、少女の手へと戻った。

「な……っ」

唖然とする影熊が瞬きをすると、少女を囲んでいた隊員が全員地に伏した。胴体を切断された者、首が飛んだ者様々だったが、いずれにせよ少女のあの一撃により殺されたのだ。
赤い血溜まりが円を書く中、少女はようやく口を開いた。

「援軍が来たと思ったらこれ?神も全然大したことないのね」

死体の山から音も立てずに飛び降り、血溜まりを抜けて影熊の正面に立つ。

「あたしはリンカ」

リンカと名乗った黄泉は、武器を影熊に向ける。

「あとはアンタだけだけど、どうするの?」

転がる死体に目をやり、影熊はリンカを睨む。

「話す前にこんだけ殺して、それ聞くわけ?」

嘲笑しながら目を細める影熊をじっと見つめ、リンカは武器を下ろす。影熊はその行動に些か驚いたように、武器とリンカを交互に見た。

「神の気配を感じない。アンタは神じゃないでしょ。あたしらの標的は神だけよ」

妖である影熊からは、当然神の気配などしない。リンカはそれが分かっていたから、一撃目を影熊に向けなかったのだ。

「へぇ、神じゃなきゃ殺さないんだ。ヤサシイね」

「標的以外を殺すことに意味はないもの。…でも、アンタがあたしの邪魔をするつもりなら、神じゃなかろうと殺すわ」

武器を構え直したリンカに、影熊はため息をひとつ零す。

「邪魔する為にわざわざ来たんだよ。相手してもらわなきゃ困る」

影熊も姿勢を落とし、拳を構える。リンカの瞳に敵意が宿った。


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