絢鷹が覇王の息子だった。
その事実は、サイ、絢鷹、吉野だけが知るに留めておこうと、あれから話し合って決めた。今更それを聞いたところで反応が変わる仲間達ではないが、母が守ろうとした秘密を守りたいという絢鷹からの希望だった。

サイ達が戻って直ぐに、また黄泉が現れたらしく軍が慌ただしく動いている。
陰に向かう一行の中には、サイの知る姿もあった。

「影熊、戦地に行くのか?」

すれ違い様に声を掛けられ、影熊は軍の流れを抜けてサイのもとへ歩いてきた。

「そうだよ。おかえりサイ」

「ただいま。お前一人か」

いつも行動を共にしている綺羅がいないのは珍しいことだと、サイは問う。影熊は腕を組み、口を尖らせる。

「別に僕弱いわけじゃないから。綺羅がたまたま出掛けてたから、僕が行くだけ」

どうも、"綺羅に面倒を見てもらっている子供"というイメージを持たれることが多い影熊だが、本人はどうやらそれが気に入らない様子だ。サイは含み笑いで悪かったと謝り、軍が走って行った方角を見る。

「気をつけろよ」

黄泉については、相変わらず謎が多いまま。戦うにしても、様子を伺いながら、時には退避も判断しなければならない。

「分かってるよ。妖とは要領が違うって知ってるから」

出雲を奪還する際に影熊も陰には同行している。黄泉がどういうものかは大体分かっていた。

「じゃあもう行くから」

「ああ」

サイに言い残し、影熊は軍が向かった門へ走る。朱雀門から出ていく軍について、影熊も陰に踏み込んだ。
生き物の気配さえあれば、この陰の土地は影熊にとって居心地の良い場所だ。荒野と岩は幼い頃から慣れっこである。
だがやはり、草一本生えないこの地には違和感を感じた。
慎重に歩を進める隊員について歩く。
軍の中に、幹部はいない。
影熊が出る直前に総隊長とやらから召集が掛かったらしく、隊長、副隊長は全員本部に戻っていったのだ。
つまり今戦地に立っているのは平隊員のみ。強敵が現れた時には、撤退も考えられるだろう。
黄泉が出たと報告された地点に近づくにつれ、黒い黄泉が襲ってきた。どれも実体のない影であり、所謂雑魚だ。
大半は隊員の手で倒され、影熊はそれ程手を出していない。

だが、報告地点に到達した瞬間、影熊の瞳から余裕が消えた。

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