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「……なあ、オカン。占いしたったらどうや?」

「ああ、そうでおすね。日頃絢鷹が世話になっていることでおす、そのお礼にでも」

吉野は柔らかく微笑み、側に置いてあった羅針盤を手に取る。術式の書き込まれた羅針盤は、手の平二つ分程の大きさで、星を二つ重ねたような形をしている。

「占い?」

首を傾げ絢鷹を見るサイに、絢鷹は説明を付け足す。

「ウチのオカンは、占いが得意やねん。オカンの能力とも言えるかもしれん。先に起こることを、断片的に見れたりするんや」

それを聞いたサイは、目を伏せ集中している吉野を見つめ、まるで巴のようだと思った。サイと焔伽の育ての母である巴は、強い霊力を持っていた。大蛇に祟り眼にされ、大蛇の能力であった「先見」という力を得てからは、未来も見えていた。
それと似たものなのだろうかと考えていると、す…、と吉野の目が開かれる。

「…この先、サイ殿には苦難が降り懸かるでありんしょう。特に心に、重いものがのしかかるでありんしょう」

「また苦難か」

俺は呪われてるのかとサイは笑う。
吉野は眉を寄せ、見えたものをどう伝えるか考えながら続けた。

「影…、片割れ…?はっきりとは分かりんせんが、サイ殿にとっていっそ近しい存在が見えんす。そいでその者とは、刃を交える事になるでありんしょう」

「片割れ…?」

「そう、あちきに見えるのはここまででありんすが、いずれにせよ苦難が待ち受けていることには変わりありんせん」

吉野は羅針盤を置き、真剣な表情で言った。

「オカンの占いは外れたことがない。用心に越したことはないな」

絢鷹もサイの周りに注意を払うと言い、吉野に頷いた。

「心に留めておく。ありがとう」

「……ほな、そろそろ帰ろか」

絢鷹に言われ窓を見ると、空はすっかり暗くなっていた。サイは頷き、立ち上がる。

「またおいでやす」

「ああ、今日はありがとう。色々聞けてすっきりした」

別れを告げるサイの横で絢鷹が障子を開け、部屋を出る。サイも続いて出ようとした時、背後から声がかかった。

「サイ殿、おしまいにもうひとつ。仲間や友を大切にしなければいけんせんえ。……けして、間違ってはいけんせん」

「…?ああ、勿論だ」

サイが肩越しに微笑むと、吉野は眉を寄せたまま頷いた。
後ろ手に障子を閉め、去っていく二人の足音を聞きながら、吉野はどこか不安げに、暗雲立ち込める空を見上げていた。




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