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姫宮が加わった事により、今までより戦闘が遥かに楽になった。僅かな傷でも治療しないと許してくれない姫宮のお陰で、傷を引きずったまま他の妖の相手をしなくても済むようになったのだ。暖かい日差しが差し込む、綺麗に整備された道。恐らく村が近いのだろう、時折他の旅人ともすれ違う。アカネと並んで歩いていた焔伽は、僅かに首を傾げながら前を歩く姫宮を見つめる。すると隣のアカネが腕をつついてきた、

「何々?焔伽、さっきから姫の事じっと見つめてるけど、もしかして・・・」

「違ぇっつの。・・・いや、だってよ・・・姫ちゃん完全に手ぶらじゃねぇか。治療道具が必要ねぇのは分かるけど、戦える・・・みたいな事を山で言ってただろ?」

「あぁ・・・そっかホントだ。武器・・・持ってないよね?」

肩を寄せて小声で話していると、姫宮が振り返る。そしてクスクス笑った。

「え、あれ?姫、聞こえたの?!」

別に陰口を言っていた訳ではないので慌てる必要はないのだが、アカネは慌てた様子で言う。姫宮の隣を歩いているサイには、二人の会話は聞こえていない様子だったが、姫宮は頷いた。

「私、犬神の能力を持ってますから、鼻と耳は良いんです。」

「どうしたんだ?」

サイも歩きながら、肩越しに後ろの二人を見た。

「姫ちゃんが武器らしき物を持ってなかったからよ、ちょっと気になったんだ。」

「あぁ・・・・確かに・・・」

山からここまで、妖とは殆どサイと焔伽が戦っていた。姫宮は治療にのみ専念していたのだ。彼女が戦っている姿を見ていない。

「私の武器はここにあります。」

「え、どこ?」

姫宮が自分の胸元を指して言う。しかし武器らしきものは見当たらず、アカネは首を傾げて顔を近づける。姫宮は笑って、首から提げている鏡を手の平に乗せた。

「これです。」

「これ?!え、でもこれ只の鏡じゃん。」

太陽を模したような形の、銀で装飾された美しい鏡。珍しい形をしてはいるが、覗き込むアカネの姿を映す、ごく普通の鏡だった。

「・・・ん?この形・・・どっかで見たような・・・」

焔伽は脳内で記憶のタンスを漁り始める。

「霊王の紋章じゃないのか?前に書物に書いてあったような・・・」

「そう!それだ!」

焔伽はすっきりした表情でサイを指差して言った。姫宮は一言、「正解です。」と言って手から鏡を離した。

「この中にちゃんと隠してありますよ。」

姫宮が言い終わった瞬間、目の前に十数匹の妖が飛び出してきた。比較的多くの地域に生息している一つ目の狼だ。一匹一匹は弱いが、集団で襲ってくる習性がある。

「ったく、人が喋ってる時に・・・」

刀を構える焔伽とサイの横を通り過ぎ、姫宮が前に出た。妖狼は一番近い姫宮を睨んで威嚇する。

「姫宮・・・?」

「私が戦うところ、お見せします。」

自信有り気に言う姫宮の背中を見て、サイは黙って刀から手を離した。それを見た焔伽も、心配そうな顔をしつつ手を離す。姫宮が鏡を両手に浮かべると、強い光と共に何かが鏡から飛び出し、姫宮の手に納まった。眩しさに目を細めた三人が見たのは巨大鎌だった。

穏やかな姫宮の印象からは想像しにくい武器を見て三人は暫時固まる。姫宮は右手で何度か鎌を回すと、軽い一歩を踏み出して舞うような動きで妖の首を飛ばしていく。途中で鎌を左手に持ち変える時も、敵を倒し、次の敵を狙う時の動き方も、無駄の無いものだった。やがて全ての妖狼を倒し、その亡骸が消えていくと、姫宮はストン、と三人の前に足をつけた。

「この程度でしたら私も・・・・どうしました?」

自分を凝視する三人を見て首を傾げる。最初にサイが我に返り、肩の力を抜いた。

「あ、あぁ・・・心配無用だな。」

「姫、強っ!」

「姫ちゃん、実はかなり戦闘慣れしてるだろ。」

あのさばき方は凡人には真似できねぇよ、と焔伽は続ける。姫宮が鎌を一振りすると、光の球体となって再び鏡の中へ消えていった。

「犬神達に戦い方は仕込まれましたから、それなりには。」

三人が改めて姫宮の能力を実感していると、突然強烈な爆発音が鳴り、前方から熱を持った風が吹きぬけた。強い突風にサイは腕で顔を庇う。

「な、何・・・?!」

咄嗟に耳を押さえた手を離し、アカネは呟いた。風と共に何かが燃える臭いが漂ってくる。姫宮は耳に聞こえる微かな音と臭いで、遥か前方で何があったのかを把握した。

「・・・・村が焼けています!」

「近いな、行くぞ!」



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