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「怖くないのか?止めておいた方がいいと思うがな。」
「何故怖がるんです?」
さも当然のように首を傾げる姫宮。逆にサイが戸惑ってしまう。そしてゆっくりと包帯を外し、呪われた右目を姫宮に向ける。禁忌の色・・・金色の右目には、呪いの呪印が刻まれていた。姫宮は暫時その眼を見つめ、何か感じたのか、目を細める。
「・・・やはり、貴方から感じていた気配はこれでしたか。」
「気配・・・?」
「貴方を呪った妖・・・まだ生きているのではありませんか?それも、強い力を持った妖。」
右目を見つめる姫宮を両目で見つめた。
「何で分かった?」
「『人間の』私には分かりません。感じているのは私の中の霊王ですが・・・貴方の右目には何かが宿っているような気がします。貴方以外の、別の気配を感じます・・・見られて、いるような。」
姫宮はそこまで言って少し考え込んだ。サイは黙ってそれを見つめる。
「祟り眼とは・・・呪い付きの妖が死の直前にかける呪い。呪ってしまえばその妖は死にます。人を呪って死なない妖は、異例です。」
「俺を呪ったのは只の妖じゃない。中つ国を支配する覇王だ。」
「覇王・・?!そうですか・・・でもそれなら、もしかしたら呪いを解けるかもしれない・・・」
「何・・・?!」
祟り眼の呪いを解く。それが出来るのは『大樹の涙』という霊薬のみとされている。しかしそれを採取できるのは何千年もの歴史を生き抜いてきたほんの僅かな大樹だけであり、現在は既に失われたとされていた。それ以外の方法など、聞いた事もない。
「祟り眼にされた者は、呪いをかけた妖の血を浴びれば、呪いから解放されると聞いています。もし覇王の血を浴びる事が出来れば、呪いは解けるのではないかと。その眼を呪ったのが覇王自身であるなら尚更その確立は高いと思います。とても・・・難しいとは思いますが。」
「覇王の、血・・・・」
「今までその方法での事例が無かったのは、呪われた瞬間にその妖は死ぬからです。貴方の場合は特殊。・・・ですが・・・危険な話です。覇王は中つ国の妖の中で最も強いとされていますから。」
「俺は元々、覇王を討つ為にこいつらと旅をしていた。覇王を殺して呪いが解けるのなら、一石二鳥・・・て事か。」
姫宮は三人の旅の目的を聞いて目を見開いた。覇王を討つなど、今まで誰が考えただろう。
「危険は承知の上、なんですね。」
サイの眼から強い意志を感じた姫宮は、目を伏せて呟いた。
「姫宮は、俺の知らない事を数多く知っているな。」
「齢三千年の大妖の魂を宿していますから。私が知っていると言うより、霊王がこの世の事に詳しかったのでしょう。」
外を眺めると、ゆっくりと朝日が昇り、それが室内を照らす。姫宮は行灯の火を消して部屋の隅に移動させた。眩しい太陽の光で、アカネと焔伽が同時に目を開け、寝惚けながらぼんやりとサイを見つめた。
「おはよう、アカネ、焔伽。」
サイの一言で二人はハッとしたように目を開き、表情が明るくなる。
「本当に迷惑かけた・・・ここまでありが」
「サイ!!」
「ぐはッ!!」
同時に前後から飛びつかれ、思い切り締め付けられる。
「良かった!サイが元気になった・・・!!」
「おまっ、散々心配掛けやがって!ったくコノヤロウ!・・・マジ良かった・・・!」
更に力を込められ、一瞬視界が白くなった。このままではまた意識を失い兼ねない。その様子を見て笑っている姫宮には正直助けて欲しいと思う。
「く・・・苦し…っ!焔伽、首・・・絞めるな・・・!!」
後ろからひたすら腕で首を締め付ける焔伽を肘でつつく。それでようやく気付いた焔伽は直ぐに離れる。
「また意識が飛ぶかと、思った・・・!」
咳き込むサイの背中を軽く叩き、焔伽は笑いながら謝る。なんとか呼吸を落ち着かせ、縮こまって腹部に抱きつくアカネに目をやると、体が小刻みに震えている。
「アカネ。」
頭に手を乗せると、アカネは顔を上げて離れる。
「泣いてないよ!泣いてないからね!」
そう言って涙を拭いつつも止まらないのを見て、姫宮は綺麗な手拭いを差し出す。アカネはそれを受け取ると、顔を埋めて嗚咽を漏らした。
「あらあら・・・」
姫宮に視線を移すと、焔伽にも同じように手拭いを差し出していた。アカネ程ではないが、薄っすらと涙が浮かんでいる。
「んだよ、嬉し涙は男でも流していいんだぜ!・・・サンキュ、姫ちゃん。」
「何も言ってない・・・てか、男でも嬉し涙以外流していいと思うぞ。」
「どうでもいいってンなもん!お前・・・はぁ・・・心臓破裂するかと思ったんだぞ!」
「あたしなんか・・・っく、二、三度破裂したんだからね!うぅ・・・馬鹿ぁ!」
「バリバリ元気じゃねぇか。」
「気持ちの問題なの!」
妙な所で張り合う二人に思わず笑いが込み上げる。じんわりと心が暖かくなっていくような気がした。少なくとも今二人は自分の為に泣いてくれている・・・言葉では言い表せない嬉しさとはこのことだ。
「・・・ありがとう。」
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