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犬神の屋敷が見えてきた頃、吐息が白く目視できる程寒く、あたりは白い雪に覆われていた。三人を乗せて空を走っていた犬神は雪の上に足跡をつけると、アカネ達が降りるのを待ち、再び人型へと姿を戻した。

「あの、ありがとう・・・」

「・・・・姫宮様のご意思に従ったまでの事だ。」

アカネが礼を言うと、犬神は顔を背け、無表情のまま言った。焔伽は再びサイを負ぶり、屋敷の入り口に立っている夢告の元へと歩いた。アカネもその後を追い、サイの体についた雪を払う。夢告は黙って屋敷の中へ案内する。室内は貴族の屋敷のように美しく飾られ、すぐに女中が出迎えた。人間が入ってきた事に驚いた様子を見せるが、夢告に頭を下げると黙って部屋へ案内する。

「これより先では武器に触れる事は許さん。こちらで預からせてもらおう。」

夢告の言葉と共に、女中がサイと焔伽の刀・アカネの忍具を全て受け取った。その女中が奥へ消えていくと、夢告は再び歩き出し、一際美しい装飾が施された扉の前に立った。

「姫宮様、失礼致します。」

一言声をかけ、扉を開ける。アカネと焔伽が部屋に入ると、扉を閉め、出口に二人の犬神が立つ。上座に座っていた女性が三人を見つめた。そしてハッとしたように立ち上がる。

「・・・焔伽!?」

「よ!久しぶりだな、姫ちゃん。」

右手を上げて焔伽が言うと、夢告が振り返る。

「貴様、姫宮様になんという・・・!」

「いいのですよ、夢告。彼とは一面識あります。それより、怪我人を早くこちらへ。」

姫宮が案内した位置には布団が敷かれていた。焔伽は黙って頷き、サイを寝かせる。よく探らずとも分かる症状に姫宮は一瞬苦しげな表情を見せる。

「これは・・・なんて酷い・・・強い毒を受けたのですね。」

顎に手を当ててサイの左腕を見る姫宮の隣にアカネは座った。

「もしかして・・・助からない・・・?」

不安気な顔で覗き込むアカネに首を振り、熱をもったサイの腕に触れる。

「毒が強すぎて薬草では無理・・・・・ですが何としても治してみせます。初期の段階なら直ぐに済みますがこれは・・・一晩時間を下さい。・・・夢告、何故もっと早く彼らを案内して差し上げなかったのですか・・・!」

予想以上だったサイの腕と二人の状態を見て姫宮は夢告を少し睨む。

「姫宮様に何かあっては困りますので。」

反省の色を全く見せない夢告を見て困った顔でため息をつき、傷口から治療し始める。

「お二人も怪我をなさっています。彼女達に診てもらって下さい。」

姫宮は部屋の隅に座っていた女の犬神二人を見ながら言った。アカネは一瞬そちらを見るが、直ぐにサイの方に向き直って両膝の上で両手を握り締める。

「やだ。サイが治るまでここにいる。」

「駄目です。焔伽、その血は・・・」

「これは俺のじゃねぇ、サイの血だ。俺のは殆ど疲労だからさ。大した怪我してねぇし。」

「それでも駄目です。まず自分の怪我を治してからにして下さい。」

姫宮の有無を言わさぬ眼差しに、二人はしぶしぶ「はーい」と返事をして部屋の隅へ移動する。姫宮はそれを横目に見、傷の手当てに集中した。傷口から聖気を流し込み、毒の中和を試みる。



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